最新【2020年代「芥川賞」全作品を紹介】ーあらすじと考察ー

芥川賞
はじめに「最新作」を全部紹介!
芥川賞受賞作品まとめ
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2000年代「芥川賞」おすすめ10選 ―個性派ぞろいの作家たち―2010年代「芥川賞」おすすめ10選 ―バラエティ豊かな傑作たち―2020年代「芥川賞」全作品を紹介あらすじと考察

芥川賞を年代ごとに紹介するこのシリーズ。

ついに2020年代ということで、いま最もホットな芥川賞作品を紹介していく。

これまでは「オススメの作品」ということで、年代ごとにいくつか厳選して紹介してきたが、2020年代は全作品について触れたいと思う。

そして、受賞作が決まり次第、随時更新し、書き加えていこうと思う。

この記事を読んで少しでも興味を持った方は、ぜひ“次の1冊”の参考にしていただければと思う。

それでは、最後までお付き合いください。

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2020年上半期受賞作

『首里の馬』(高山羽根子)

あらすじ

主人公は、沖縄で暮らす主人公の未名子。

彼女は、遠く世界の果てにいる孤独な人に「クイズを出題する」という怪しげな仕事をしている。

また、その仕事の傍らで、よりさんが管理する資料館の手伝いをしている。

沖縄に双子台風が上陸したある晩のこと、自宅の庭に一頭の「宮古馬」が迷い込み、未名子は困惑しつつも、その馬に「ヒコーキ」という名をつける。

その後、順さんの資料館の閉鎖と解体が決定する。

未名子は「クイズ出題」の仕事を辞める決意をし、ヴァンダ、ポーラ、ギバノそれぞれと最後の交流をし、そこで彼らの人生の真実に触れる。

最後は彼ら一人一人に、資料館に眠る「データ」を送信し、「にくじゃが、まよう、からし」の3つの言葉を伝える。

順さんが死んだのは、その後、2度目の台風が上陸した頃のことだった。

考察「知識、情報、記憶」に光を

本書『首里の馬』は、いわゆる「寓話」的な性格が強い作品だ。

「寓話」とは、要するに「たとえ話」のようなもの。

もっと言えば「象徴的」「暗示的」な物語のことだ。

物語に登場するモチーフには、一見しただけでは分からないが、それぞれ現実的なメッセージというのが込められている。

普通とは違ったアプローチなので読者に強いインパクトを与えるのだけど、ややもすると「分かりにくい」という印象も与えかねない。

ということで、本書もまた、おそらく賛否両論ある作品だといえる。

さて、本書で扱われるモチーフは次の4つ。

  • 沖縄
  • 資料館
  • 遠隔クイズ
  • 首里の馬

では、これらのモチーフに託されたメッセージとは、いったい何だろう。

結論をいえば、

「情報、知識、記憶」に、改めて光を!

ということになるだろう。

この「情報、知識、記憶」の3つは、「精神的なもの」とか「非物質的なもの」と言い換えることもできる。

と、ここまで読んだあなたの頭は、きっと沢山の「?」で満たされていると思う。

なので、もう少しイメージしやすくするために、やや小難しい話になるが、近代以降、社会は「物質的なもの」に対する信頼を深めてきたといえる。

たとえば、

「快適に過ごせるように、エアコンを開発しよう」とか、

「速く移動したいから、新幹線を開通させよう」とか、

「長生きしたいから、医学を進歩させよう」とか。

もちろん、これらは全面的に否定されるべきものではないと、僕も思う。

だけど「物質的な進歩」を求めるその一方で、社会は「非物質的なもの」、言い換えれば「精神的なもの」をすみっこに追いやってきた。

たとえば「こころ」

たとえば「死者」

たとえば「記憶」

そうした「物質に還元されないもの」を取り戻そうとする「文学」は、近年とみに増えてきている。

お金とか、モノとか、そうした「物質的な豊かさ」ばかりを求めてきたのが現代人だとすれば、僕たちはその代償としての「精神的な貧しさ」を抱えてしまっているのではないか。

本書はそんな現状を憂えつつ、読者に向けて「精神の復権」を改めて訴えかけている。

【 参考記事 解説・考察『首里の馬』(高山羽根子)―「知識、情報、記憶」に光を!―

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『破局』(遠野遥)

あらすじ

主人公「陽介」は、都内の私立大学(おそらく慶應義塾大学)に通う4年生。

高校時代からラグビーをしていて、鍛え抜かれた肉体を持っている。

強すぎる性欲を持っていて、自慰やセックスに耽る日々を送っている。

女性には事欠かず、麻衣子という交際相手がいる。

いまは就職活動中で、公務員を志している。

一見して、真っ当な社会生活を送っているように見える陽介だったが、麻衣子とぎくしゃくし、灯という女性と出会ったことで、彼の「異常性」が徐々に露呈していく

考察「絶妙な異常さ」を持つ主人公

陽介は一見して、真っ当な学生生活を送っているように見える。

友人との交流、彼女とのデート、就職活動……どれをとっても不自由なくやれているかに見える。

少なくても外面的には、間違いなくその辺の大学生か、いやむしろ「高学歴エリート」といった感じで、別段気になる点はない。

ただ、彼の内面には、言葉にするのが難しい「不穏さ」「異常さ」といったものが隠されている。

本書『破局』は、陽介の「一人称」での語りを中心に描かれていくのだが、物語の序盤からして、読者はかすかな「違和感」を感じるはず。

そして、その違和感は次第に強まっていき、そして、こう確信する。

この陽介という男、何かが変だ。

では、いったい、何が変だというのか。

いくつかあげられるのだが、最も大きいものが「不自然な論理と思考」だといえる。

たとえば、彼はセックスについて、こんな風に述懐する。

セックスをするのが好きだ。なぜなら、セックスをすると気持ちがいいからだ。セックスほど気持ちのいいことは知らない。(P68より)

どうだろう、この「あほな高校生」が書いたような文章

「セックス」に関してもっともらしく説明しているわりに、その実、なんの説明にもなっていないではないか。

陽介の思考には、こんな感じの、

「え、いります、その説明?」

といった論理が本当に多い。

こうした不自然な論理が、陽介の語りによって描かれていくのだが、それが彼の「不穏さ」とか「不気味さ」とかいった印象を徐々に強めていく。

実はこれは、作者の企みであり、1つの叙述トリックなのだけれど、案外その点に気が付かない読者は多く、ネットなんかを見てみると、

作者には文才がない

登場人物に共感ができない

とか、割と好き放題に批判している。

だけど、そもそもこの作品に「共感」とか、「面白さ」とかを求めるべきではない

むしろ、この陽介という人物の絶妙な「異常さ」にゾクゾクしながら読み進めていく

敢えて言えば、これが、本書の“正しい”読み方なのだろう。

「正常と異常の絶妙なバランス」

その妙を、ぜひ本書で味わってみてはいかがだろう。

【 参考記事 解説・考察『破局』(遠野遥)ー「つまらない」その隠された理由に迫るー

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2020年下半期受賞作

『推し、燃ゆ』(宇佐見りん)

あらすじ

主人公は女子高生の「あかり」

彼女はその存在をかけて、「上野真幸」というアイドルを推している

ある日、真幸がファンを殴って炎上する

炎上後のファン投票で、真幸は最下位に転落。

現実を受け入れられないあかりに追い打ちをかけるように、「グループの解散」、「真幸の芸能界引退」が報道されてしまう。

そして、記者会見に臨む真幸の指には、婚約指輪が光っていた。

ある日あかりは、ネットで拡散された情報を頼りに、真幸の自宅へと向かう。

すると、真幸の洗濯物を干す、ショートボブの女性を目にするのだった。

考察「推し」に見られる宗教性

本書が発表されたとき、作者の宇佐見りんは現役の大学生。

ということで、SNSを通じた若者たちの交流や「推しごと」に励む若者の心理とが、作家の実感に基づいて、よりリアルに描かれている。

しかも、宇佐見りんの「文学的感性」は天才的で、それは多くの作家や選考委員たちが認めるところ。

特に、作家の高橋源一郎氏は、宇佐見りんを非常に高く評価してるのだが、彼は宇佐見りんを評して、

文学的な絶対音感がある

と言っている。

彼女の才能は「天賦のもの」だということだろう。

さらに高橋源一郎が称賛するのは、作品の冒頭2行。

推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。

いわく、「ここを読んだ瞬間、芥川賞受賞を確信した」だそうだ。

文章力だけでなく、世界を切り取る「感性」も、瞠目すべき彼女の才能の1つだろう。

本書はとかく、

「推しを推す人の心理を描いた作品」

と、浅く表層的に解釈されがちだけれど、実はもっと人々に開かれた普遍性があると僕は思う。

つまり、本書は「推し」という特定の文脈で語られるだけの作品ではなく、「生きづらさ」を感じるすべての人に突き刺さる作品なのだ。

主人公のあかりもまた「生きづらさ」を抱えた女性なのだが、その生きづらさはとても切実で、真幸を求めざるをえない彼女の姿には、ある種の「宗教的なもの」さえ見て取れる。

本書『推し、燃ゆ』を読むと、推しを推す「切実さ」や「尊さ」について考えさせられる。

僕は読後、大げさではなく、次のような結論にいたった。

畢竟、生きるとは「何かを推すこと」なのだ。

【 参考記事 考察・解説『推し、燃ゆ』(宇佐見りん)ー推しに見られる宗教性-

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2021年上半期受賞作

『貝に続く場所にて』(石沢麻依)

あらすじ

舞台は、震災から9年後「コロナ禍」のドイツ。

ある日、主人公「私」のもとに知人からメールが届く。

メールによれば、「野宮がゲッティンゲンにくる」という。

実際に「私」がゲッティンゲン駅にいくと、そこには野宮がいた。

ただ、野宮は9年前の東日本大震災に遭い、そのまま「行方不明」になっていたはず

目の前の野宮は「死者」なのか「生者」なのか「幽霊」なのか

野宮の突然の登場により、「私」は9年前の震災の光景や死者について想う。

考察「死者」の声を聴く

まずは、あえて言っておきたいことがある。

この作品は、芥川賞の中でも指折りの“難解”な作品だ。

その理由として、次の4点が挙げられる。

  • 文章がギュウギュウに詰まっている点
  • 比喩的・暗示的な文体が採用されている点
  • 西洋美術の教養がふんだんに盛り込まれている点
  • 「テーマ」がシンボリックに語られる点

たぶん、この羅列で「あぁ、じゃ読むのやめっか」となると思う。

だけど、この作品には、とても大切なメッセージが込められている。

それは、

「死者を風化させてはいけない」

というものであり、

「死者の声に耳を傾けなければならない」

というものだ。

この作品の舞台は、東日本大震災から9年後の世界で、しかも世界はパンデミックにさらされている。

もちろん、これは僕たちが生きる、この現実世界をモデルにしている。

「死」とは、決して他人ごとではなく、現実問題として僕たちの日常にあふれている。

だけど、僕たちは、そこにしっかりと目を据えることができているのだろうか。

死者を見つめ、死者の声を聴き、死者に思いを馳せることが、果たしてできているだろうか。

これはなにも災害やパンデミックなど、非常時だけに限らない。

いつだって僕たちは、死者とともに生き、死者と対話をしなければならないのだ。

だけど、そんなことが果たして可能なのだろうか。

多くの人が、きっとそう思うかもしれないが、本書にはそのヒントが描かれている。

実際に僕は本書を読んで

「悲しみから目を背けるな、死者の声を聴け」

そう言われたような気がした。

【 参考記事 考察・解説『貝に続く場所にて』(石沢麻依) ―死者の声を聴くこと―

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『彼岸花が咲く島』(李琴美)

あらすじ

舞台は彼岸花が咲き乱れる、とある〈島〉

その浜辺に、記憶を無くしたある少女(宇実)が漂着する。

自分がどこから来たのかも覚えていない宇実は、そのまま〈島〉で生活することになる。

そして、宇実は〈島〉の実態について知っていく。

  • 〈島〉では、男女が異なる言葉を学ばされるらしい
  • 〈島〉では、「ニライカナイ」という楽園を信仰しているらしい
  • 〈島〉では、「ノロ」と呼ばれる女たちが、共同体を統率しているらしい

宇実は「大ノロ」という最高権力者に会う。

大ノロは宇実に対して、「ノロとなって〈島〉の歴史を担うこと」を命令する。

宇実はノロになるために、「女語」と呼ばれる言葉の習得をめざす。

ただ、〈島〉の実態を知れば知るほど、宇実の疑問は膨らんでいく。

なぜ〈島〉では、男女が違う言葉を学ぶのか。

なぜノロは、女性だけしかなれないのか。

その答えは驚くべきものだった。

考察「美しい日本語」を強烈に風刺

なんといってもこの作品の魅力は、「言語にとって自覚的」な点だ。

物語には3つの言語が登場する。

  • ニホン語
  • ひのもとご
  • 女語

物語では、それぞれの言語や島の歴史が明かされるわけだが、それらは間違いなく「日本語」の歴史を風刺している

ご存じの通り、日本語は「漢字」や「外来語」や「やまとことば」のハイブリット言語である。

そんな日本語だが、実はその歴史に「漢字を排除しよう」という運動があったことを、あなたは知っているだろうか。

根っこには、「美しい日本語」とか「純粋な日本語」を求める思い(とか、韓〇や中〇といった国にマウントを取りたいという思い)があるのだが、果たして「漢字の排除」で、本当に「美しい日本語」が実現できるだろうか

本書『彼岸花が咲く島』は、ストーリーとしてもとても面白く、芥川賞らしからぬ「エンタメチック」な小説である。

だけど、内包するテーマはとても深く、とても興味深い。

とりわけ、言語とか日本語に興味関心が強い読者には、とってもオススメできる作品となっている。

【 参考記事 考察・解説『彼岸花が咲く島』(李琴峰) —美しい日本語を問うー

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2021年下半期受賞作

『ブラックボックス』(砂川文次)

あらすじ

主人公は28歳の男性“サクマ”

コミュ力に乏しく、癇癪かんしゃく持ち

感情のコントロールが効かない彼は、これまで数多くの対人トラブルを巻き起こし、職を転々としてきた。

現在は「メッセンジャー(自転車便)」をして生活をしのいでいる。

そんな中、同棲している円佳が妊娠。

サクマは改めて「ちゃんとしなきゃ」と思い始める。

ある日、自宅アパートに税務官がやってきて、サクマは脱税を指摘される。

癇癪を起こしたサクマは、税務官らに暴行を加え、駆けつけた警察に現行犯逮捕される。

刑務所の中でも、相変わらずトラブルが絶えないサクマ。

同房の男に暴行を加えたことで、50日間も独房に閉じ込められる罰を受ける。

だが、このとき初めてサクマは自分自身と向き合うことが出来た。

「自分の半生」とは、「これからの人生」とは、「自分はいったいどう生きていくべきか」

そんな内省の果てに、彼がたどり着いた「答え」とは……

考察「ゴール」の見えない現代社会

本作『ブラックボックス』は、選考会で多くの選者から高い評価を得た。

その中でも「飾り気がない」という言葉は、この作品の本質をよく表していると思う。

たしかに、この作品には「優れたテクニック」とか「高い芸術性」とか「斬新なテーマ」といったものはないかもしれない。

ただ、その一方で、人間を真正面から捉えようとする「ストレートさ」があって、読む者の心に刺さる作品だといえるだろう。

「本作には、書かれねばならなかった切実さがある」

という選者の言葉は、その点を言い当てたものだ。

日々、自転車をこいで金を稼ぎ続けるサクマの生活は、文字通り「自転車操業」さながら。

そんな彼を捉えて離さないのは、次の問いだ。

――幸福な人生とは、いったい何なのだろう——

――おれは何を目指して生きていけばいいのだろう――

彼は自分自身が目指すべき「ゴール」が分からない。

ゴールが分からないのに、生活に追われるように、走り続けているのだ。

だけど、僕たちもよく考えてみたい。

じゃあ、幸福な人生って、一体なんだ?

万人に通用する「幸せ」なんて、果たしてあるのだろうか?

実際に僕たちだって、何が幸福で、何が正解で、何がゴールか分からないでいる。

この世界に生まれた瞬間から、よーいドンと、なぜか走らされているのが僕たちだ。

だけど、そのゴールがどこなのか、僕たちには分からない。

僕たちとサクマと、いったい何が違うのだろうか。

きっと、本質的には変わらない。

この世界はまるで「ブラックボックス」のように謎に包まれていて、それを生きているのは僕たちだって同じなのだ。

本書は、そんな現代人の姿を「サクマ」という男に投影させて、見事に描き切った佳作だ。

選考会では、本書は次のように評された。

「現代における、プロレタリア文学」

まさに、この一言が、本書の本質を鋭く言いえている。

【 参考記事 解説・考察『ブラックボックス』(砂川文次)―誰もが“サクマ”である現代―

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おわりに「芥川賞」を読むなら……

「芥川賞」を読むなら、”耳読書”「Audible」がオススメ

ここ数年利用人口を増やしている「Audible」は、出版社だけでなく現役の芥川賞作家らからも注目されている

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1 時間を有効活用できる 

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4 月額1500円で“聴き放題”

いま、なぜAudibleが出版業界や現役作家らから注目されているのか。

その辺りのことを以下の記事で紹介しているので、興味のある方はぜひ参考にしていただければと思う。

【 芥川賞作家らが注目! Audible(オーディブル)の可能性を徹底解説

芥川賞をもっと読みたい人はこちら

以下の記事で、さらに作品を紹介している。

「受賞作品をもっと読みたい」と思う人は、ぜひ参考にどうぞ。

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