【暴力・性描写・アンモラル系】おすすめ芥川賞作品 5選 ―中級編③―

芥川賞
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「暴力・アンモラルな」作品を5つ厳選

芥川賞の中には、決して万人受けしない類の作品がある。

以前にこちら【暗い・怖い・ドロドロ】おすすめ芥川賞作品 5選 ―中級編―で、ネガティブな作品ばかりを紹介した。

今回は、それよりもっとダークで、ディープで、メランコリーな作品を紹介する。

読んでいて「辛い」とか「苦しい」というより、それらを通り越して「痛い」レベルの作品だ。

「怖い見たさ」的に興味のある方は、自己責任でぜひどうぞ。

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第5位『太陽の季節』(石原慎太郎)

元祖“アンモラル系”現代小説

1955年の受賞作。

「元東京都知事」のイメージが強すぎるのだが、彼は芥川賞の選考で井上靖・川端康成に評価された、実力派の作家である。

井上「力量と新鮮なみずみずしさにおいて抜群」

川端「私は石原氏のような若い才能を推奨することが大好きだ」

第34回芥川賞を受賞した石原は、まだ一橋大学の学生。

そのデビューは鮮烈だった。

まず、出版されるや30万部の大ヒットを記録。

「太陽族」という流行語が生まれ、「慎太郎刈り」なるヘアスタイルが流行。

『太陽の季節』は映画化され、弟の石原裕次郎はそこで映画デビュー。

芥川賞史上において、ここまでセンセーショナルなデビューを飾った作家はいなかった。

そして、ここまで世間に「芥川賞」を知らしめた作家もいなかった

そういう意味で、現代の「芥川賞」の知名度の高さには、間違いなく石原の功績がある。

さて、作品についてだが、『太陽の季節』を一言で言えば、「とにかくアンモラルな作品」である。

ここまで多くの賛否を呼んだ問題作は、当時の芥川史上で珍しかった。

実際に、選考委員の佐藤春夫は作品の「反倫理的」な点を上げて、

「作者の美的節度の欠如に、嫌悪感を禁じ得なかった」

と痛烈に批判している。

主人公の「竜哉」は享楽的な日々を愉しむ高校生。

街で女性をナンパしたり、クラブで遊んだりする日々。

そんなある日、いつものようにナンパして出会った女性が「英子」だった。

初めは彼女に肉体だけを求めていた竜哉だったが、恋愛感情が芽生える。

それは、英子が他の男といるところを見ると、激しく嫉妬するほどだった。

ところが、英子が竜哉につきまとうようになると、今度は逆に嫌気がさし始める。

そして、英子に関心をもつ兄・道久に、彼女を5000円で売りつけるのだった。

その他にも妊娠、中絶、死などセンセーショナルな内容が、作品には盛り込まれている。

竜哉たちが壊そうとしているのは、「大人達の世界」であり、「既存のモラル」である。

たしかに『太陽の季節』は、これまでの文学と異質だ。

ここまでの芥川賞は「第三の新人」と呼ばれた連中の受賞が続いていたが、彼らの私小説的作品と『太陽の季節』は明らかな一線を画していた

そして、その反倫理的な内容に嫌悪感を抱く読者も多かった

とはいえ、1970年代になると、村上龍『限りなく透明に近いブルー』が登場し、そのむき出しの暴力と性描写によって、文学シーンに再び衝撃を与えることになる。

第4位『エーゲ海に捧ぐ』(池田満寿夫)

エロ過ぎて選考委員が嫌悪

1977年の受賞作。

実はこの作品は、芥川市場に残る伝説的な作品だ。

どういった点で伝説的かというと、この作品の受賞をめぐって永井龍男が選考委員を自ら退任している。

この前の回で受賞したのが『限りなく透明に近いブルー』だったのだが、この時も永井は露骨な「性描写」に嫌悪感を示した

そこにかぶせるように、この『エーゲ海に捧ぐ』が現れたわけで、長いここで「とどめ」をさされてしまったのだった。

この作品には、とにかく性描写が多く、いわば「純文学的官能小説」といった趣だ。

主人公の「私」は彫刻家で、アメリカに滞在している。

そこから日本にいる妻に電話をかけているのだが、作品に描かれるのはその間の2時間ばかりの出来事だ。

ではその何が「官能的」かと言うと、

まず、受話器を握る「私」の目の前に、浮気相手の陰部がある

女性はイタリア人の「アニタ」

そこには他に「グロリア」という女性もいて、彼女たちは次第に互いの身体を愛撫し始める。

「私」はそんな光景を見ながら、日本にいる妻と電話をしているわけだ。

そして受話器からは妻の罵声が響いている……

いや、どんな状況?

と、あらすじで早速面食らうと思う。

『岬』は2時間そこらの出来事を書いた小説なのだけど、とにかく性描写のオンパレードだし、しかもメチャクチャ緻密に細部を描くし、タイトルの『エーゲ海』みたいな優雅さは全くない。

それもそのはず。

実は「エーゲ海」とは 「女性の性器」のメタファーなのだ。

この小説には数々のエロティックなメタファーにあふれている。

こんな小説は今までになかった。

遠藤周作、中村光夫、吉行淳之介なんかは高く評価した。

永井龍男は「こんなの文学じゃない」と一蹴した。

「前衛的」と評価するか、「下劣」と評価するか、それは読み手次第。

1970年代を代表する問題作、ぜひ一読してみてはいかがだろう。

第3位『限りなく透明に近いブルー』(村上龍)

酒! ドラッグ!! セックス!!!

1976年の受賞作。

作品は発表されるや瞬く間にベストセラー(推定130万部)

『限りなく透明に近いブルー』が、これほどまで世間で注目されたのは、「暴力」や「性」を露骨に扱った、そのセンセーショナルな内容にあった。

選考委員の吉行淳之介は、

「いったん読むのをやめた。気を取り直すのに一週間かかった。読了するのに半月かかった」

と、困惑を隠せないでいた。(吉行淳之介といえば「男女の交情」を描く名手なのだが、その彼でさえ拒否反応を示すほど!)

同じく選考委員の丹羽文雄は、その刺激的な内容を指摘しつつも、

「この小説の魅力を強烈に感じた」

「久しぶりに文壇に新鮮な風が吹き込んだ」

「これは20代にしか書けない作品だ」

と、その若い才能を高く評価している。

その一方で、永井龍男のように「前衛性」を最後まで理解できず猛反発した選考委員もいた。(退任事件については後述の通り)

要するに、村上龍は彗星のごとく現れた「新たな文学の旗手」だったのだ。

さて、あらすじはこんな感じだ。

  • 時は70年代、ヒッピームーブメントの真っ只中。
  • 舞台は東京、とある米軍基地の町。
  • 主人公はリュウという若者。
  • 彼の仲間達は小さなアパートの1室で、乱交パーティを繰り広げる。

とにかく、本書で描かれるのは、酒とドラッグとセックス

ちなみに、当初の題名は「クリトリスにバターを」だったらしい。

あまりにも露骨すぎ……

だが、仮にその名前だったとしても、それに負けないくらい本書はスゴい。

彼ら若者たちにとって、エクスタシーと肉体的な痛みのみがリアルで、そんな彼等の姿を通して描かれるのは、汚くむき出しにされた強烈な生だといえる。

70年代というのは、高度経済成長真っ只中。

日本がどんどん豊かになっていく時代だ。

そんな時代に突如あらわれた『限りなく透明に近いブルー』

そのセンセーショナルな内容で、当時かなりの反響を生んだ。

じつは、この辺りから、暴力モノ、セックスモノが流行り出す。

たとえば、山田詠美のデビューは80年代。

デビュー作『ベッドタイムアイズ』も、暴力やセックスがふんだんに描かれている。

豊かな時代の中で、「生きるリアリティ」が人々から失われていったからなのだろう。

それをを改めて問うたこれらの作品は、期せずしてその時代を象徴していたともいえる。

じゃあ、現代はどうなのかと言えば、事情はそう変わらない。

性や死はいつの時代だってタブーだし、とくに現代は「死」をとにかく隠蔽し続ける時代だ。

そんな中で、人々の生命感はとても希薄で乏しいものになっている。

だからこそ、本書が描く暴力や傷みは、今でも人々の生命感やリアリティを刺激し続けるのかもしれない。

やはり、時代が文学を生むのだ。

 

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第2位『送り火』(高橋弘希)

元バンドマンによる“超絶”正統派文学

2018年の受賞作。

作者は元バンドマン。

受賞会見では長い茶髪にユルいジーパン姿で登場して、ひょうひょうと(そしてヘラヘラ?)インタビューに応じていた作者。

だが、そんな出で立ちや態度とは打って変わって、彼はとんでもなく正統的な小説を書くのだ。

ちなみに彼は、毎年のようにずっと芥川賞にノミネートされてきた実力派であり、受賞年のノミネート作品の中ではぶっちきりの1番人気と目されていた。

そして、ほぼ満場一致で受賞。

表現の的確さが高く評価された。

  • 山田詠美「完成度に感嘆しながら、受賞作に推した」
  • 小川洋子「他の候補作を圧倒する存在感を放っていた」
  • 吉田修一「この作者の描写力には文句のつけようがない」

ここまで絶賛された作品は、2010年代でも珍しいだろう。

  • 舞台は秋田のとある田舎。
  • 主人公の「歩」は父の転勤で東京から引っ越してきた。
  • 新しい中学は、わずか12人しかいない小さな中学。
  • だけどそこでは“遊戯“と称した暴力が日常化していた。
  • そして「村の習わし」の日が近づいていく……

作品では、うつくしい風景描写が印象的に描かれている。

その一方、対照的に描かれるのが、そこに住む少年たちの嗜虐性や獣性。

少年たちの残酷な“いじめ”の実態がしつこく入念に描かれていく。

しかも、構成もかなり計算されているようで、ちょっとした伏線が暴力の惨たらしさを際立てる。

そしてなんといっても、クライマックスの暴力シーンが超なまなましい。

僕は高橋弘希が好きで、彼の作品は全て読んでいる。

だからこそ言えることなのだが、彼の筆がもっともノってくるのは暴力を描くときなのだ。

この時の高橋弘希は神がかっている。

興味がある人はぜひ本書を手に取り、その筆致を味わってみてほしい……のだが、ほんとうに暴力シーンは凄いので、そういうのが苦手な人はやめたほうがいい。

それでもって人は自己責任でどうぞ。

第1位『蛇にピアス』(金原ひとみ)

“痛み”こそ生きる証

2003年の受賞作。

物語はこう始まる。

「スプリットタンって知ってる?」

「何? それ。分かれた舌って事?』

「そうそう。蛇とかトカゲみたいな舌。人間も、ああいう舌になれるんだよ」

この冒頭で、読者の心はグッとつかまれる。

「スプリットタン」とは、舌に穴をあけて、それを少しずつ拡張していき、最後に糸で舌を二股に裂いて、「蛇のような舌」にするという、要するに“身体改造”の一つである。

タイトルにある「蛇」と「ピアス」は、このあたりに由来している。

2000年代は「ボディピアス」が流行った時代だ。

「ボディピアス」とは、耳や鼻や舌や眉やヘソ、そして強烈な人は「アソコ」にも、とにかく身体のいたる所にするピアスのことをいう。

これが、とにかく、痛い。

ちなみに、ぼくも耳にピアスを開けて拡張したが、痛すぎて中途半端でやめたクチである。

作者はピアスとか、タトゥーとか、SMとか、暴力とか、セックスとか、そうした若者の「痛み」にスポットをあてて、彼らの儚く繊細な心理を見事に描いている

選考委員の黒井千次は、

「歯切れのよい短い文章が、痛覚や欲求や血の騒ぎや、脱力感までストレートに叩きつけてくる」

と評価した。

また村上龍は この作品を推そうと、選考委員を説得するためのメモを持って選考会に参加したという。

村上龍自身も『限りなく透明に近いブルー』で暴力とドラッグとセックスを描き芥川賞を受賞した作家だ。

「餅は餅屋」よろしく、その道の先達には『蛇にピアス』という作品の妙がよく分かったのだろう。

実際「痛み」を書かせたら、金原ひとみの右に出るものはいないとぼくも思っている。

実は金原自身、15歳のころリストカットを繰り返した経験を持っていて、その切実な経験が作品の元になっている。

生き伸びるために「痛み」が必要、「痛み」こそが存在証明。

作中には、そんなメッセージがみなぎっている。

作品は漫画家され、映画化され、翻訳されて世界105ヶ国で売られた。

ちなみに、受賞時の金原は20歳

この若さで、これだけのものを書いたその才能に驚かされる。

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