【本格的・伝統的リアリズム小説】おすすめ芥川賞作品 5選 ―上級編①―

芥川賞
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 「本格小説」を5つ厳選 

これまで芥川賞作品について、様々なテーマを設けて作品を紹介してきた。

【本当におもしろい】おすすめ芥川賞作品5選 ー初級編①ー

【ハートウォーミング・日常系】おすすめ芥川賞作品 5選 ―中級編①―

上記では主に芥川賞「初心者」の方や「中級者」の方向けに向けた記事だったが、いよいよ「上級編」

この記事では1950年代~1980年代を中心に、玄人ウケする「本格小説」というテーマで作品を紹介したい。

  • 「文学好き」を自任する方
  • 「分かりやすい作品」に飽き飽きしているという方
  • 「深い余韻」に浸りたいという方

そんなを方々を主なターゲットとして作品を選抜したので、ぜひ「次の1冊」の参考にしていただけると嬉しい。

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第5位『月山』(森敦)

作者について

森敦が芥川賞を受賞したのは、なんと61歳のことだった。

選考でも

「60歳を超えた新人なんてありえない」

という声もあがったというが、そんな中でも丹羽文雄は、

「私は、この人の名前を30年昔にしっていた」

とした上で、

「ちっとも老人くさくないのは、脅威である」

と絶賛している。

また「森敦が芥川賞を受賞した」というニュースを耳にし、はるか昔に聞いたその名前に驚いた文学ファンも少なからずいたという。

森敦とは、一体なにものなのか。

1912年に生まれた森は、旧制第一高等学校に入学した戦前の秀才文学少年だった。

彼は菊池寛に見いだされ、横光利一に師事し、若い頃は あの太宰治・檀一雄・中原中也の同人として創作に励んだ。

そうそうたるメンバーと肩を並べていた森だったが、ある日から作家として沈黙することになる。

それから40年……

時は流れ、人々が「森敦」を忘れかけた頃、彼は再び文壇に現れたのだった。

選考委員たちは、彼をとても好意的に迎え入れた。

「森敦の登場は、井上靖、大江健三郎の登場を思わせる」

「彼の作品を読んで、久しぶりに小説を読む楽しさを堪能した」

「60代は決して“老い”ではない、むしろ作家として成熟の時期である」

この記事の冒頭、ぼくは「1970年代は、文学に新風が吹いた」と紹介したが、『月山』はそんな中で突如現れた「近代文学」さながらの正統派の小説だったのだ。

なお、61歳の受賞は当時としては最高齢記録だった。

その記録は、2013年に黒田夏子( 『ab さんご』 )が75歳で受賞して更新している。

作品について

1973年の受賞作。

『月山』は俗世間から関係を絶った男が、冬の山奥で過ごす物語だ。

「月山」とは庄内平野の裏にある山で、古くから「死者の山」とされてきた。

また、その近くにある「鳥海山」は逆に「生者の山」だという。

2つの山が象徴するように、この作品には「生と死」というテーマがひっそりと流れている。

森敦の筆も仕上がっていて、月山の秀麗な姿と山里の生活が写実的に淡々と描かれていく。

この山里に暮らす人々は、四季とともに生きている。

春の訪れを喜び、冬の訪れに堪えしのぶ……。

作中、なんらの事件も発展もないので盛り上がりには欠けるが、それにより逆に際立つものがある。

それは「村里に流れる時間」である。

その時間とは「都会」に流れる「直線的な時間」とは違い、春夏秋冬を繰り返す「円環的な時間」だといえる。

そしてそれは、生と死を内包する「人間の命」と結びついてる。

井上靖の選評が、おそらく『月山』の魅力をよく伝えている。

「雪深い集落の冬ごもりの生活を、方言をうまく使って、現世とも幽界ともさだかならぬ土俗的な味わいで描き上げた」

静かで美しく、全ての生命を包み込むような、そんな味わい深い作品だ。

第4位『年の残り』(丸谷才一)

作者について

丸谷才一が「文学」に果たした功績はめざましく、彼は「文学そのものであった人」とさえ呼ばれた人物である。

東京大学文学部英文科を卒業した丸谷は、國學院大學や東京大学で教鞭を執った。

41歳の時に書いた小説『笹まくら』が河出文化賞を受賞し、2度の芥川賞候補になる。

そして、43歳の時に書いた『年の残り』で第59回芥川賞を受賞する。

こうし書くと やや遅咲きの作家に見えるが、ここまでに彼が果たした業績は大きかった。

学生時代ジェイムズ・ジョイスに影響を受けた丸谷は、名作『ユリシーズ』の翻訳や、文学論でも知られていた。

また国語問題文章論古典論などにも造詣が深く、多方面での活躍を見せていた。

選考委員の石川淳は、

「過去の候補作2作で十分受賞できた」

といった上で、

「今回の作品では、むしろ賞の方が遅れて出た」

「丸谷才一の力量は、ここに定まった」

と評価している。

『輝く日の宮』(泉鏡花文学賞)は、『源氏物語』の1巻として実在したかもしれない「輝く日の宮」成立の謎をめぐる「文学史小説」で、とにかく面白い。

長い教壇生活をあわせて、実に多くの顔をもつ才子である。

作品について

1968年の受賞作。

とある病院で院長をつとめる「上原」は還暦を過ぎた老人だ。

そんな彼のもとに、ある一本の電話がかかってくる。

友人「多比良」が自殺をした、というのだ。

多比良は上原の、旧制中学時代の同級生。

父親の意向で中学を中退させられると、家業の菓子屋を継がされた。

その菓子屋を人気店にのし上げた多比良だったが、彼は「色狂い」の果てに猟銃で頭を撃ち抜いたのだった。

この小説は、晩年を迎えた老人が、友人の自殺をきっかけに「人生」を見つめ直す物語だ。

老年(年の残り)という時代は、まさに別れの連続なのだろう。

この小説を読むと、「みんな死んでいく」という当たり前の事実が、改めて胸に迫ってくる。

そして、人間の苦しみの根幹ともいえる「老、病、死」とは何かを問わずにはいられない。

選考委員の三島由紀夫は、

「人生、老、病、死の不可知を扱っていて、作家としての一つの苦い観点を確保した」

と、この作品を強く推している。

また、大岡昇平も、

「老人の心理がよく描けており、人間の生について、根源的な問いを発している」

とし、同時受賞の大庭みな子の『三匹の蟹』よりも高い評価を示した。

第3位『驟雨』(吉行淳之介)

作者について

吉行淳之介は、東京大学を中退後、雑誌編集者を経る。

安岡章太郎同様、彼もまた「第三の新人」と呼ばれた作家だ。

彼が書くのは、主に「男女の性愛」である。

端正な顔立ちをした吉行には、恋愛沙汰も多かったのかも知れない。

たとえば吉行の作品には「元カノから大量にパンツが送られてきて、おびえる話」なんてものもある。

ただ、そのタッチは都会的に洗練されていて、時に不気味で、時に美しい

また、夢を題材にした作品も多く、現実の違和感を奪うような筆致も魅力である。

30歳のころ「『驟雨』その他」で第31回芥川賞候補にノミネート。

曾野綾子、小島信夫ら12名が候補者という激戦を勝ち抜いての受賞となった。

ちなみに「その他」となっているのは「吉行の過去の作品も含めての受賞」という意味だ。

これは、芥川賞史上において珍しい。

ここまで芥川賞を2度落選し、3度目の候補となった吉行に対して、選考委員は、

「彼は、一作書く毎に成長してきている」

「自らの偉業を遂げよという期待を込めて」

といった感じで、激賞と言うよりも激励の言葉を述べている。

そんな吉行だが、まさに彼らの期待に応えるように、次々と文学賞を総ナメにしていく。

純文学・大衆文学問わず、エッセイなんかも多数書き、あらゆるシーンで活躍した。

ちなみに、父の吉行ケイスケも作家。

妹の吉行理恵も芥川賞を受賞している。

母の吉行あぐりは、まぁ、美容師だけど、吉行家は文学一家なのだ。

作品について

1954年の受賞作。

タイトルの『驟雨』とは「にわか雨」のこと。

主人公の「山村英夫」の心は、まるで「にわか雨」のように突然変化することになる。

独身の山村にはある趣味があった。

それは「娼婦」の街に遊びにいくこと。

彼が「娼婦街」へいくのは、女性関係をあくまで「あそび」として割り切っていたからだ。

ところが、ある日「道子」という娼婦に会ってから、にわかに変化が生まれる。

山本は道子に恋をしてしまうのだった。

そして「他の男に、道子に近づけたくない」という思いから、よりいっそう、娼婦街に足を運ぶようになる。

山村の心の変化と、風景としての「驟雨」の描き方がとてもうまい。

1人の男が恋に落ちていくプロセスを丁寧に描きつつ、嫉妬や憎しみなどのアンビバレントな感情も鋭く見抜いている。

芥川賞の名にふさわしい作品だともう。

 

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第2位『ダイヤモンドダスト』(南木佳士)

作者について

受賞当時、作者 南木佳士は現役の勤務医

彼の描く作品のほとんどは、医療現場を舞台にしている。

描かれるテーマも、一貫して変わらない。

それは「人間の生死」だ。

死にゆく人々、それに寄り添う人々、残された人々

そういう、人間の姿が、作品の最大のモチーフになっている。

芥川賞受賞後まもなく、南木佳士はパニック障害うつ病をわずらい、勤務医を辞職している。

繊細すぎる医者にとって、日々繰り返される人間の死は、到底耐えられるものではなかったのだろう。

だからこそ、彼によって切り取られる人間の姿は、ぼくたちの胸に突き刺さってくる。

南木佳士は、エッセイもオススメだ。

特に、うつ病について述べている箇所は、人間のこころの在りようについて深い示唆を与えてくれる。

うつ病について、こう彼は語っている。

「自らの意思とは関係なく自動的に自分を処分しようとするシステムが起動する」

作品について

1988年の受賞作。

1982年から4度 芥川賞候補にあがるが落選。

5度目の候補で受賞した。( ちなみにこのときの候補者には「吉本ばなな」もいた )

  • 主人公は、妻を病で失った看護士の和夫。
  • 幼い息子の正史と、脳卒中で寝たきりの父と共に暮らしている。
  • ある日、彼の勤務する病院に、末期癌の宣教師マイクが入院してくる。
  • ほぼ同時に、和夫の父が倒れて、同じ病院に入院してくる。
  • おなじ部屋になったマイクと父は、次第に交流を深めていく。

この作品には、南木佳士の誠実な死生観が描かれている。

人間の「老い」と「死」を象徴するように、秋や冬の風景が描かれるのも特徴的だ。

特に「ダイヤモンドダスト」のラストシーンは必見

その圧倒的な完成度に、選考会ではほぼ満場一致。

黒井千次「完成度は抜きんでていた」

大庭みな子「ほとんど難点のない作品」

三浦哲郎「百回記念の芥川賞にふさわしい出来の作品」

田久保英夫「この作者の生と死を貫く垂直な視線に 一票入れた」

ここまで評価された作品というのは80年代に限っていえば、とても珍しかった。

南木佳士は決して多作な作家ではないが、その誠実な作品を今でも地道に発表し続けている。

ぼくが心から信頼できる作家の一人である。

第1位『螢川』(宮本輝)

作者について

宮本輝は、この記事のラストを飾るのにふさわしい文学界のレジェンドである。

1977年に自らの幼少期をもとに描いた『泥の河』で作家デビュー。

その翌年に、『螢川』で芥川賞を受賞し、作家としての地位を確立。

宮本輝は、細やかな人間心理を、叙情性豊かで美しい文章で描く作家だ。

一文一文が洗練された文章は読んでいて心地よく、読後も感動が潮のように押し寄せてくる。

そんな芸術的に完成度の高い文章表現が高く評価され、芥川賞を受賞したわけなのだが、加えて、読み手の感情を揺さぶる物語も描けるストーリーテラーとしての一面もある。

宮本輝は、吉川英治文学賞を史上最年少で受賞している。

この賞は東野圭吾とか宮部みゆきとかも受賞していて、いわゆるエンタメ小説を対象の文学賞だ。

文章としても美しく、物語としても人の心を動かす、それが宮本輝という作家なのだ

1996年から2020年まで芥川賞選考委員をつとめ、その引退時には『文藝春秋』で特集が組まれたほど。

2010年には紫綬褒章を受勲している。

現代文学を語る上で、絶対に外すことのできない重鎮中の重鎮、レジェンドオブレジェンドである。

作品について

1977年の受賞作。

この小説は、たくさんのエピソードが交錯していて、あらすじを紹介するのが難しい。

なので、まずは舞台設定を簡単に。

  • 舞台は昭和37年、冬の富山。
  • 主人公達夫は14歳。
  • 年老いた父、母と貧しい暮らしを送っている。

と、こう書いただけで、作品にただよう息苦しさを感じると思う。

両親は互いに再婚同士で、父親はすでに66歳。

そんな父は、物語の途中で脳溢血により他界する。

それ以外にも、様々なエピソードが展開されていく。

父の死、友人の死、母親の過去、達夫の恋心と嫉妬心。

この作品を読むと、人間の一生とはなんと短く、なんと儚いことかと思わずにはいられない。波乱に満ちた人生を、晩年に振り返ってみれば、きっと一晩の夢のような儚さを感じるのだろう。

そんな「人生のはかなさ」が、『螢川』で巧みに表現されている。

もちろん、読んでいて息苦しく、切なく、苦しいストーリーだ。

だけど、この作品がそれだけで終わらないのは、終盤の「ホタル」のシーンがあるからだ。

そして、このシーンこそ『螢川』の最大の魅力である。

「4月に大雪が降ると、ホタルが大量発生する」ことを聞きつけた達夫は、母たちとホタルを見に行く。

数え切れないホタルが飛び交う幻想的な光景。

これまでずっと描かれてきた、主人公をとりまく重苦しい現実が、無限の蛍の光と美しく重なり合い、強烈な感動が押し寄せてくる。

ここでの宮本輝の文章は神がかっていて、その表現力に圧倒される。

選考でも、

「この世のものと思えないほど美しい」

と、大絶賛。

たった90ページ足らずの作品なのに、読後の感動は長編小説のそれに匹敵する。

宮本輝の作品には素晴らしいものが数多くあるのだが、ぼくはこの『螢川』が最高傑作だと思っている。

ここまで美しい世界を描き出せるのは、宮本輝をおいて他にないだろう。

文学ファンを今でも魅了し続ける名作中の名作……

これは読まなきゃ損である。

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