はじめに「純文学の新人賞」
純文学とは、明治以降に始まった日本の「近代文学」の伝統を大きく組んだ文学ジャンルで、作者による「“芸術”や“哲学”についての深い思索・探求」が描かれているのが大きな特徴だ。
【 参考記事 【純文学とエンタメ小説の違い】を分かりやすく解説―主な文学賞や文芸誌も整理― 】
そんな純文学をメインで取り扱う雑誌がある。
いわゆる「文芸誌」と呼ばれるのがそれで、中でも有名な「5大文芸誌」というものがある。
これら文芸誌にはそれぞれ、優れた「新人作家」を発掘すべく、年に1度の「公募の新人賞」が設けられている。
それぞれの賞には、それぞれの賞の“色”というものがあるので、たとえば、「純文学を書いて、小説を応募してみたい!」という思いがある人は、各賞の傾向や特徴を把握しておく必要がある。
ということで、今回は代表的な純文学新人賞について解説をしてみたい。
取り上げるのは「5大新人賞」+「太宰治賞」
記事では主に「賞の概要」と「賞の特徴と傾向」、「代表的な受賞作」についてまとめていく。
また、最後に作品を書く上での「効果的な対策方法」と、その「おすすめサービス」について紹介するので、ぜひ参考にしていただければと思う。
参考までに、恥ずかしながら僕の「執筆経歴」については(ぱっとしないけど)以下に挙げておく。
では、どうぞ、最後までお付き合いください。
文學界新人賞について
賞の概要を整理
まずは「賞の概要」について以下に整理しておく。
出版社 | 文藝春秋 |
賞金 | 50万(+記念品) |
枚数 | 70枚~150枚 (400字詰原稿用紙) |
応募総数 | 毎年1500~2500編程度 |
応募締め切り | 毎年9月末日ころ |
発表 | 5月号 |
主な受賞者 | 石原慎太郎(1955年) 吉田修一(1997年) 宮下奈都(2004年)など |
賞の傾向と特徴
さっそく結論から言うと、文學界新人賞には以下の傾向と特徴があるようだ。
「文學界新人賞」は、『文學界』が主催する新人賞で、いわゆる「5大賞」の中では最も歴史と伝統がある新人賞だ。
そうしたプライドと貫禄の表れと言おうか、過去の受賞作を読んでみると「近代文学」の伝統をくむオーソドックスな作品がおおい。
ここでいう「オーソドックス」というのをもう少し分析してみると、次のような特徴が挙げられるだろう。
- 大きな事件や展開は必要ない。
- ささいな日常の一コマを切り取る。
- 緊密で端正な文体が採用される。
- 「人間とは何か」といった鋭い洞察がある。
また、応募作品の規定枚数が少ないのも、この章の特徴だ。
他の文学賞の上限が「300枚近く」なのに対して、文學界新人賞の上限は「150枚」と明らかに少ない。
つまり、文學界新人賞は「短・中編小説」に特化しているといっていい。
ここから言えるのは、1つ1つの言葉選びを正確に「純度や密度の高い表現」を使うのが大切ということだろう。
そのためには、書き手は「削る」作業を厭わずに、作品の“ぜい肉”を徹底的にそぎ落とさなければならない。
近年の受賞作も、以上の特徴を持つ作品が受賞しているわけだが、特筆すべきは”現代的なテーマ”を扱った作品の受賞が見られることだ。
たとえば、2022年の受賞作した『N/A』 (年森瑛)は
繊細な内面を持つ女子高生の内面を丹念に描いた作品で、食べることを拒み、生理を止めようとする主人公のまどかは慢性的な孤独を抱えている。
デリケートな性を中心に扱っている辺りが、今っぽい。
以上、文學界新人賞の傾向と特徴をまとめると以下の3点。
- ”正統的な作品”が好まれる
- 文章の”純度の高さ”が求められる
- ”現代的”なテーマが求められる
オススメの受賞作
鷺沢萠「川べりの道」(1987年)
鷺沢萠は、知る人ぞ知る“伝説の作家”で『文藝春秋』が発掘した早世の天才だ。
19歳という若さは、当時の最年少記録。
現役女子大生で端正な顔立ちの鷺沢のデビューは世間の注目集めた。
その才能は、間違いなくホンモノ。
デビューは19歳だが、実際に書かれたのは、彼女が高校生だった頃のこと。
緊密で端正で丁寧な文体で描かれるのは、川べりの風景と主人公の孤独と悲哀。
「これを女子高生が書いたの?」
と衝撃を受けた僕は、一瞬で鷺沢のファンになった。
だけど、鷺沢を知ったとき、すでに彼女はこの世にはいなかった。
35歳で自ら命を絶った鷺沢。
作品に描かれた孤独と悲哀は、まさしく彼女のそれだったことが分かる。
文學界受賞後も数々の傑作を描き、4度の芥川賞候補になったが、授賞には至らなかった。
すばらしい作品ばかりなのに、歴史に埋もれてしまった作家の1人。
もっともっと多くの人に読まれるべきだと、僕は強く思っている。
さらに詳しい解説や代表作についてはこちらの記事を参考にどうぞ。
【 参考記事 文學界新人賞(文藝春秋)の傾向・特徴・受賞作を解説 】
新潮新人賞について
賞の概要を整理
まずは「賞の概要」について以下に整理しておく。
出版社 | 新潮社 |
賞金 | 50万(+記念品) |
枚数 | 250枚以内 (400字詰原稿用紙) |
応募総数 | 毎年1800~2200編程度 |
応募締め切り | 毎年3月末日ころ |
発表 | 11月号 |
主な受賞者 | 中村文則(2002年) 田中慎弥(2005年) 上田岳弘(2013年)など |
賞の傾向と特徴
さっそく結論から言うと、新潮新人賞には以下の傾向と特徴があるようだ。
文學界新人賞に次いで、長い歴史と伝統を誇る賞、それが新潮新人賞だ。
「新潮新人賞」は「文學界新人賞」と並び、伝統ある「2大新人文学賞」と位置づけられることが多い。
実際、2つの文学賞の特徴や傾向には共通点があるのだが、その1つに、
「硬派」で「正統的」な作品が好まれる
という点が上げられるだろう。
実際に、過去の授賞作品を振り返ってみると、日本の近代文学に見られた「リアリズム」(写実)的な文体が採用されたものが多い。
ただ、それと矛盾するようなことを言うようだが、近年の受賞作の中には「独自の哲学」を持つ作品や、「挑戦的な試み」をした作品や「個性的」な作品というのが散見される。
硬質で、強度が強く、確かな文章、そこに確かなオリジナリティがなければならないのだ。
そこに加えて、高い構成力が求められる。
というのも、新潮新人賞の規定応募枚数の上限は「300枚」
過去の受賞作を見てみると、多くの場合が200枚を超えるものがほとんど。
そして、そのどれもが、綿密なプロット(構成)を有している。
ここから言えることは、
新潮新人賞では、中編から長編に対応できる“高い構成力”が要求されているということなのだろう。
以上、新潮新人賞の傾向と特徴を以下の3点になる。
- ”硬派な作品”が好まれる
- ”独自性”が高く評価される
- ”高い構成力”が求められる
オススメの受賞作
中村文則「銃」(2002年)
新潮新人賞が生んだビッグネームといえば、間違いなく中村文則だ。
彼の文学を一口にいえば「不条理の文学」と言えるもので、多くの作品で
「人間に自由意志はあるか」
といった哲学を変奏して描き続けている。
そんな彼の哲学が色濃く表れたデビュー作が『銃』だ。
硬質な文体、構成力、主題、どれをとっても一級品で、参考にしたい1冊だ。
なお、同じテイストの作品に『遮光』、『掏摸』、『土の中の子供』があるので、そちらも参考にしておきたい。( いずれも「新潮」から出版された作品 )
さらに詳しい解説や代表作についてはこちらの記事を参考にどうぞ。
【 参考記事 新潮新人賞(新潮社)の傾向・特徴・受賞作を解説】
群像新人文学賞について
賞の概要を整理
まずは「賞の概要」について以下に整理しておく。
出版社 | 講談社 |
賞金 | 50万 |
枚数 | 70~250枚以内 (400字詰原稿用紙) |
応募総数 | 毎年1800~2200編程度 |
応募締め切り | 毎年10月中旬ころ |
発表 | 6月号 |
主な受賞者 | 村上春樹(1979年) 多和田洋子(1991年) 村田紗耶香(2003年)など |
その他 | 別に「優秀賞」あり |
賞の傾向と特徴
さっそく結論から言うと、群像新人文学賞には以下の傾向と特徴があるようだ。
『群像』は、『文學界』や『新潮』よりもやや後発の文芸誌で、2誌に比べると独自の世界観を持っている。
それは『群像』が主催する「群像新人文学賞」についても同様で、正統派作品が評価される傾向にある「文學界新人賞」や「新潮新人賞」に比べると、独自性の強い作品が受賞する傾向がある。
それは、過去の受賞作や受賞者を見れば明らかだが、それを最も象徴するのは70年代後期、「村上春樹・村上龍」のW村上の受賞だといっていいだろう。
両者は当時の文学の枠を突き抜け、文壇に新たな風を巻き起こした大作家であるが、彼らを発掘したのが何を隠そう「群像新人文学賞」だったのである。
ということで、「群像新人賞」に求められるのは、これまでの文学の枠組みを破壊してしまうほどの「個性」や「独自性」だといっていいだろう。
そのほか過去の受賞作を見てみても、「独自性の強い作品」が多く受賞しているワケだが、その作風は文字通り“千差万別”
しかも、「前衛的」な作品が多く、文体だったりテーマだったり、あるいは登場人物だったりに、何かしらの「新しさ」があったりする。
つまり、書き手の鋭い感性や、先見性みたいなものが求められるのだ。
この点において、他の新人賞に比べると「群像新人文学賞」は少し毛色が違う賞だといっていいし、なんなら純文学新人賞の中で最も「難易度の高い賞」だと僕は考えている。
実際、近年では、群像新人賞を含め『群像』に掲載された作品が芥川賞に受賞した例は数多い。
このあたりは、群像の先見性をよく表わしているし、繰り返すが、やはり群像新人文学賞を受賞するためには、突き抜けた「前衛性」のようはものが必要不可欠ということなのだろう。
以上、群像新人文学賞の傾向と特徴を以下の3点になる。
- ”強烈な独自性”が求められる
- ”難易度が高さ”は文芸誌イチ
- 新人賞の中では”芥川賞”に近い賞
オススメの受賞作
村田沙耶香『授乳』(村田沙耶2003年)
村田沙耶香の「クレイジーっぷり」が存分に発揮されたデビュー作。
ここでの「授乳」は「母から子へ」ではなく、「中学生から家庭教師へ」なされるもの。
文体はライトで読みやすく、言ってしまえば、誰でも真似できそうな感じはあるのだが、小説の発想や世界観は絶対に誰にもマネすることはできない。
「よくもまぁ、こんな話思いつけるな」
僕も長年小説を書き続けているクチだが、この作品を読んだ時、率直にそう思った。
とにかく村田沙耶香の個性は尖りに尖っていて、そうした“独自性”が、『群像』の求める文学性にバシッとはまったのだろう。
人間が内に秘める「暴力性」や「狂気」をえぐり出すような村田沙耶香の筆致も、この頃からすでに表れている。
「とにかく突き抜けた小説を書きたい」
そんな人には、参考になる一冊だと思う。
さらに詳しい解説や代表作についてはこちらの記事を参考にどうぞ。
【 参考記事 群像新人文学賞(講談社)の傾向・特徴・受賞作を解説 】
文藝賞について
賞の概要を整理
まずは「賞の概要」について以下に整理しておく。
出版社 | 河出書房新社 |
賞金 | 50万+記念品 |
枚数 | 100~400枚以内 (400字詰原稿用紙) |
応募総数 | 毎年1800~2300編程度 |
応募締め切り | 毎年3月末日 |
発表 | 冬季号 |
主な受賞者 | 綿矢りさ(2001年) 磯崎健一郎(2007年) 宇佐見りん(2019年)など |
その他 | 受賞作は高確率で単行本化 |
賞の傾向と特徴
さっそく結論から言うと、文藝賞には以下の傾向と特徴があるようだ。
文藝賞の歴史は長く、1962年に第1回が行われて以降、数々の有名作家を輩出してきた。その第1回は高橋和巳『悲の器』というゴリゴリの純文学だったのが、近年はライトで取っつきやすい作品が受賞する傾向にあるようだ。
もう少し、文藝賞の傾向について説明するなら、次のようなイメージがピッタリだと思う。
「新しい感性」+「程よいエンタメ性」=「売れそうな作品」
まず、「新しい感性」についてなのだが、急いで強調しておきたいのは、“新しい感性”というのは何も「年齢が若い」とイコールではないということだ。
確かに文藝賞の受賞者の中には、現役高校生とか大学生がちらほら見られるが、そこは別に本質ではない。
大切なのは発想の新しさとか、手法の新しさとか、テーマの新しさとか、とにかく何かしらの“新鮮さ”があることだろう。
次に「程よいエンタメ性」についてなのだが、それを象徴するのは、山田詠美の存在だ。
彼女は「文藝賞」でデビューし芥川賞に何度かノミネートされたが受賞を逃し、その後、直木賞を受賞した希有な作家だ。
彼女以外にも、山崎ナオコーラ、中村航、青山七恵、綿矢りさ、羽田圭介といった作家たちがいて、彼らの作品にもほどよい“エンタメ感”があるといって良い。
こうした特徴は、硬質な作品を推す「文學界新人賞」や「新潮新人賞」なんかと比較すると分かりやすい。
総じて、文藝賞の受賞作には「売れそうな作品」というのが多い。
そもそも、なぜ文藝賞は”売れそうな作品”を求めているかというと、文藝賞の場合、受賞作のほとんどが単行本化されるからだと僕は考えている。
『新潮新人賞』も『文學界新人賞』も『群像新人賞』も「受賞しても単行本化されない」なんてことが結構あるようなのだが、過去の「文藝賞」受賞作はほとんどが単行本化されている。
単行本化する以上、商業的にコケルわけにはいかないのだ。
ということで、文藝賞には「売れそうな作品」という条件が大前提としてあるように僕は思っている。
以上、文藝賞の傾向と特徴を以下の3点になる。
- ”新しい感性”が求められる
- ”程よいエンタメ性”が求められる
- ”売れそうな作品”が求められる
オススメの受賞作
宇佐見りん『かか』(2019年)
――うーちゃん、19歳。
母(かか)も自分も、もう抱えきれん。――
ここ近年の「文藝賞」の中では、1番の傑作だと思う。
ご存知『推し、燃ゆ』の作者宇佐見りんのデビュー作『かか』は、『推し、燃ゆ』よりもはるかに優れた作品だと断言できる。
何度も言うけど、なぜこの作品で芥川賞授賞しなかったのか、僕は不思議でならない。(ノミネートすらされていないし)
仮にこれから何十年死ぬ気で努力をしたとしても、僕には絶対にこんな文章は書けない。
それを若干19歳にして書き上げたなんて。
宇佐見りんは文学的な奇跡、というか、バケモノだ。
彼女には世界を解釈しよう、語ろうという意図などなくて、世界の方から彼女に流れ込み、彼女はただそれを語らされているのではないか。
そんな想像を弄するぐらい、この作品は神がかっている。
異次元過ぎて「文藝賞」に応募する上でどれだけ参考になるかは分からないけれど、応募を検討しているなら一読するべき作品だと思う。
さらに詳しい解説や代表作についてはこちらの記事を参考にどうぞ。
【 参考記事 文藝賞(河出書房新社)の傾向・特徴・受賞作を解説 】
すばる文学賞について
賞の概要を整理
まずは「賞の概要」について以下に整理しておく。
出版社 | 集英社 |
賞金 | 100万+記念品 |
枚数 | 100~300枚以内 (400字詰原稿用紙) |
応募総数 | 毎年1100~1500編程度 |
応募締め切り | 毎年3月末日 |
発表 | 11月号 |
主な受賞者 | 佐藤正午(1983年) 辻仁成(1989年) 金原ひとみ(2003年)など |
その他 | 受賞作は高確率で単行本化 |
賞の傾向と特徴
さっそく結論から言うと、すばる文学賞には以下の傾向と特徴があるようだ。
いわゆる「5大文芸誌」(文學界・新潮・群像・文藝・すばる)の中で、もっとも新しい文芸誌が『すばる』だ。
ということで『すばる』が主宰する「すばる文学賞」も、他の純文学系新人賞に比べると新しい。
1977年の第1回以降、数々の作家を輩出してきたが、そのラインナップを見て真っ先に気づくことがある。
それは、他の新人賞と比べて、「若い書き手」と「女性の書き手」が圧倒的に多いことだ。
そうした傾向は2000年以降どんどん強くなっていき、近年では受賞者の8割近くが女性という状況。
これにはちゃんとした理由がある。
それは、文芸誌『すばる』の読者層が若年層、とりわけ女性であるということだ。
となると必然的に「すばる文学賞」に求められるのも、そうした「若い女性」に共感されるような作品ということになる。
実際に過去の受賞作を見てみると、主人公が女性の物語が多いし、若くみずみずしい感性が光る作品が多いし、しなやかで湿った文体の作品が多い。
また、エンタメ性の強さは、5大賞の中ではトップクラスだといっていいだろう。
実際に、「すばる文学賞」受賞作家の中には「直木賞作家」や「山本周五郎賞作家」の名も散見される。
「純文学もエンタメも、どっちもイケます」という作家は決して珍しくはないのだが、こうした作家が「すばる文学賞」出身者には多い。
そして、最後に、僕はこのすばる文学賞が、公募の純文学新人賞の中で、もっともお得な賞だと考えている。
その理由は主に次の3点。
- 応募総数が少ないこと
- 「佳作」が設けられていること
- 高確率で単行本化してくれること
この辺りは、すばる文学賞の大きな特徴であり、作家志望者にとっては大きなメリットだといっていい。
以上、すばる文学賞の傾向と特徴を以下の3点になる。
- ”若くみずみずしい感性”が求められる
- ”エンタメ性の強い”が求められる
- ”もっともお得な”新人賞
オススメの受賞作
金原ひとみ『蛇にピアス』(2003年)
「スプリットタンって知ってる?」
「何? それ。分かれた舌って事?』
「そうそう。蛇とかトカゲみたいな舌。人間も、ああいう舌になれるんだよ」
この冒頭で、読者の心はグッとつかまれる。
「スプリットタン」とは、舌に穴をあけて、それを少しずつ拡張していき、最後に糸で舌を二股に裂いて、「蛇のような舌」にするという、要するに“身体改造”の1つだ。
タイトルにある「蛇」と「ピアス」は、このあたりに由来している。
作者はピアスとか、タトゥーとか、SMとか、暴力とか、セックスとか、そうした若者の「痛み」にスポットをあてて、彼らの儚く繊細な心理を見事に描いている。
実際「痛み」を書かせたら、金原ひとみの右に出るものはいない。
「少女の独白体」を採用したのも成功していて、読み進める中で、主人公の「孤独」や「痛み」がズキズキと伝わってくる。
- なめらかな文章
- 少女の繊細な内面
- センセーショナルなテーマ
- 飽きさせないストーリー
そうしたものを総合すれば、「すばる文学賞」のイメージにピッタリな作品だといっていいだろう。
ちなみに、作者の金原自身、15歳のころリストカットを繰り返した経験を持っていて、その経験が作品の元になっているといわれている。
作品の「独白体」に凄みが生まれるのもそのためだ。
さらに詳しい解説や代表作についてはこちらの記事を参考にどうぞ。
【 参考記事 すばる文学賞(集英社)の傾向・特徴・受賞作を解説 】
太宰治賞について
賞の概要を整理
詳しい説明に入る前に、まずは「賞の概要」について以下に整理しておく。
出版社 | 筑摩書房(三鷹市との共催) |
賞金 | 100万+記念品 |
枚数 | 50~300枚以内 (400字詰原稿用紙) |
応募総数 | 毎年1100~1500編程度 |
応募締め切り | 毎年12月中旬 |
発表 | 5月(PR誌+HPにて) |
主な受賞者 | 宮本輝(1978年) 津村記久子(2005年) 今村夏子(2010年)など |
その他 | 最終候補作は作品集に全文掲載 |
賞の傾向と特徴
さっそく結論から言うと、太宰治賞には以下の傾向と特徴があるようだ。
太宰治賞は三鷹市と筑摩書房が共同で開催する公募型の「純文学新人賞」だ。
過去の受賞者の中には、芥川賞を受賞した作家も少なくない。
応募総数も常に1000を超える人気があり、いわゆる「五大純文学新人賞」には含まれないけれど、確かな歴史と権威がある文学賞なのである。
さて、いきなりこんなことを言うのは大変心苦しいのだけど、太宰治文学賞というのは他の新人賞に比べると、正直いって傾向・特徴をつかむのが難しい。
過去の受賞作を読んでみると、その作風は多岐に渡っているのだ。
会話文を多用しテンポよくストーリーを展開する作品が受賞したかと思えば、些細な日常を細かく緻密に思弁的に描いた作品が受賞したりする。
また、エンタメ要素の強い作品が受賞したかと思えば、本格的な私小説っぽい作品が受賞したりする。
こんな感じなので、正直いって太宰治賞は、他の文学賞よりも傾向や特徴が把握しにくく、対策がしづらい文学賞だと言っていいだろう。
このことは、規定枚数が「50~300枚」と幅が広く、自由度が高いことに由来しているのだと思われる。
いずれにしても、太宰治賞を狙う人は、過去の受賞作を研究しつつも、傾向や特徴などにとらわれることなく、とにかく「良い作品」を作ることに意識を向けるべきなのだろう。
それから、太宰治賞には他の新人賞にはない大きなメリットがある。
それは、最終選考に残ることができれば、作品全文がPR誌(ムック)に掲載されるという点だ。
太宰治賞において、1500近い作品から1次を突破できるのは大体100作品くらい。
その後は
【 2次選考 】→ 【 最終選考 】→【 受賞 】
という流れで進んでいくのだが、この最終候補に残れば、必ず全文が作品集に掲載される。
(作品集についてはこちらを参考にどうぞ)
もし、太宰治賞の傾向と特徴をつかみたい方は、こちらの作品集を手に取り、実際に分析してみることをオススメする。
以上、太宰治賞の傾向と特徴を以下の3点になる。
- 過去の受賞作は”多種多様”
- ”傾向と対策”がつかみにくい
- ”最終候補作品”は全文公開される
オススメの受賞作
今村夏子『こちらあみ子』(2010年)
太宰治賞よ! よく今村夏子を発掘した!
読み終えた瞬間、僕はすばらしい作家との出会いに、心から喜んだ。
アルバイト先の事務所で「明日休んでください」と言われた日の帰り道、突然、小説を書いてみようと思いつきました。
これは、作者 今村夏子の太宰治賞受賞のことばである。
バイトをクビになり? 思いつきで書いた小説は、半年そこらで完成させてしまったという。
そして、生まれたのが『あたらしい娘』のちに『こちらあみ子』と改題され出版された。
さらに数ヶ月後、『こちらあみ子』は三島由紀夫賞も同時受賞するという快挙をなしとげる。
主人公は、周囲から変わり者扱いをされ疎外され続ける小学生のあみ子。
あみ子は愚鈍なまでに純粋で、その純粋さが途方もなく悲しい。
純粋さが持つ罪、そして美しさ。
そんなものを痛切に訴えかけてくる作品だ。
今村夏子の「書かずして書く」文章のうまさにも注目。
余談だが、僕は小説を書いていて、
「ここ書きすぎかな? 削った方がいいかな?」
と悩んだときはいつも、今村夏子の文章を参考にしている。
さらに詳しい解説や代表作についてはこちらの記事を参考にどうぞ。
【 参考記事 太宰治賞(筑摩書房)の傾向・特徴・受賞作を解説 】
まとめ「作品をどこに応募すべきか」
以上の内容を踏まえ
「自分はどの新人賞に応募するべきなのか」
といった悩みを持つ方のために、簡単にアドバイスをしようと思う。
結論をまとめると以下の通りになる。
新人賞名 | 相性の良い人 |
文學界新人賞 | ・短編~中編小説が得意 ・オーソドックスな小説を書きたい ・簡潔で硬質な文体にあこがれる ・文体や表現にこだわりがある |
新潮新人賞 | ・中編~長編小説が得意 ・プロットやストーリーに自信がある ・簡潔で硬質な文体にあこがれる ・文体や表現にこだわりがある |
群像新人文学賞 | ・短編~中編小説が得意 ・誰にも真似できない小説を書きたい ・既存の枠組みにとらわれたくない ・実験的なことをやってみたい |
文藝賞 | ・中編~長編小説が得意 ・程よいエンタメ感のある作品 ・自分の感性で勝負したい ・ライトで読みやすい文体にあこがれる |
すばる文学賞 | ・中編から長編小説が得意 ・エンタメ性の強い作品 ・みずみずしい文体にあこがれる ・新人賞への応募が初めての人 |
太宰治賞 | ・自分の作風がよくわからない人 ・とにかくどこかに応募したい人 ・良い作品が書けた! と自負がある人 |
以上が、僕からのアドバイスなのだけど、もちろんこれに該当しなくたって十分に受賞する可能性はあるので、あくまでも「参考」程度に考えてもらえればと思う。
あとは、受賞者を見て決めるのも1つの手だろう。
「自分は村上春樹にあこがれているから群像に出す」
そんな感じで応募先を決めてもいい。
同様に、選考委員をみて決めるのも理にかなっている。
もしも、自分があこがれている作家が選考委員をしている賞があれば、その賞はあなたとの相性がきっと高いはずだ。(ちなみに僕はそうやって選んだ賞で2次選考まで進んだことがある。)
最後に、純文学賞に応募するために、必ずクリアしていなければならない点について述べておく。
それは、大きく次の4点だ。
- 自分なりの”哲学や思想”がある。
- 言葉による”芸術”への意識がある。
- ”現代的なテーマ”を内包している。
- これまでにない”新しさ”がある。
そもそも”純文学”とは、書き手の”哲学や思想”が現れている作品や、”言葉による芸術”への自覚がある作品のことだといっていい。
そして”新人賞”とは、現代的なテーマを扱った作品や、これまでにない、何かしらの”新しさ”がある作品に与えられる賞だ。
つまり、ただ面白いだけの作品や、上手だけどどこかで見たことのある作品は、たとえ2次選考くらいに進出したとしても、授賞することはまずないと断言できる。
その大前提を忘れることなく、この記事の内容を踏まえ、ぜひご自身の応募先を検討していただければと思う。
効果的に「対策」をするには
純文学の新人賞への応募を検討している方は、その対策として「過去の受賞作」や「受賞作家の作品」を数多く読む必要がある。
こうした作品を分析することの大切さは、多くの選考委員や編集者が口をそろえて言っていることだ。
特に「過去の受賞作品」を読む意義は大きく次の2つ。
- 賞の傾向や特徴を把握できること。
- 過去の作品との類似を避けられること。
この2つは一見矛盾するようだけれど、どちらも大切なことだ。
賞の性格にそぐわない作品を投稿することは、いわゆる「カテゴリーエラー」となってしまうし、過去の作品との類似は、その時点で「新人賞としてふさわしくない」とみなされてしまうからだ。
そこで、「過去の受賞作」や「受賞作家の作品」を格安かつ効率的に読むためのオススメサービスを2つ紹介しようと思う。
どちらも読書家や作家志望者にとって人気のサービスなので、ぜひ利用を検討していただければと思う。
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