はじめに「純文学の新人賞」
純文学とは、明治以降に始まった日本の「近代文学」の伝統を大きく組んだ文学ジャンルで、作者による「“芸術”や“哲学”についての深い思索・探求」が描かれているのが大きな特徴だ。
【 参考記事 【純文学とエンタメ小説の違い】を分かりやすく解説―主な文学賞や文芸誌も整理― 】
そんな純文学をメインで取り扱う雑誌がある。
いわゆる「文芸誌」と呼ばれるのがそれで、中でも有名な「5大文芸誌」というものがある。
これら文芸誌にはそれぞれ、優れた「新人作家」を発掘すべく、年に1度の「公募の新人賞」が設けられている。
それぞれの賞には、それぞれの賞の“色”というものがあるので、たとえば、「純文学を書いて、小説を応募してみたい!」という思いがある人は、各賞の傾向や特徴を把握しておく必要がある。
ということで、今回は「新潮新人賞」(新潮)について解説をしてみたい。
記事では主に「賞の概要」と「賞の特徴と傾向」、「代表的な受賞作」についてまとめていく。
また、最後に作品を書く上での「効果的な対策方法」と、その「おすすめサービス」について紹介するので、ぜひ参考にしていただければと思う。
参考までに、恥ずかしながら僕の「執筆経歴」については(ぱっとしないけど)以下に挙げておく。
では、どうぞ、最後までお付き合いください。
まずは概要を確認!
詳しい説明に入る前に、まずは「賞の概要」について以下に整理しておく。
出版社 | 新潮社 |
賞金 | 50万(+記念品) |
枚数 | 250枚以内 (400字詰原稿用紙) |
応募総数 | 毎年1800~2200編程度 |
応募締め切り | 毎年3月末日ころ |
発表 | 11月号 |
主な受賞者 | 中村文則(2002年) 田中慎弥(2005年) 上田岳弘(2013年)など |
特徴①「“硬派”な作品が好まれる」
五代文芸誌のうち『新潮』の歴史は『文學界』に次いで2番目に古い。
ということで「新潮新人賞」は「文學界新人賞」と並び、伝統ある「2大新人文学賞」と位置づけられることが多い。
実際、2つの文学賞の特徴や傾向には共通点があるのだが、その1つに、
「硬派」で「正統的」な作品が好まれる
という点が上げられるだろう。
【 参考記事 文學界新人賞(文藝春秋)の傾向と特徴を解説 —作家志望の人は対策を!— 】
実際に、過去の授賞作品を振り返ってみると、日本の近代文学に見られた「リアリズム」(写実)的な文体が採用されたものが多い。
たとえば、2018年の受賞作『いかれころ』(三国美千子)は、「旧弊な田舎の閉塞感」を描いた作品だが、その文体は寡黙で淡々としたものだった。
冒頭を引用すればこんな感じ。
土曜日が来ると母は必ず自転車の後ろに私を乗せて出かけた。
勝手口の小さな緑色の留金をくるんとひねり南京錠をかけると、物置の茶色い扉のすきまに鍵を置いて険しい眉でつかつかと自転車のところまでやって来た。(『いかれころ』より)
もっともこの感じは「地の文」に限ったことで、「会話文」には“関西弁”が採用されていて、全体的には独特の空気をかもしていた。
なお、本作は同じく新潮主宰の「三島賞」を授賞している。
また、2014年の受賞作『指の骨』(高橋弘希)は、芥川賞の候補作にもなった作品で、その無駄のない的確な表現が高く評価された。
高橋弘希は2018年に『送り火』で芥川賞を受賞することになるが、選考会でもその「表現の的確さ」が高く評価されていた。
冒頭はこんな感じ。
黄色い街灯がどこまでも伸びていた。
その道がどこへ繋がっているのか、私は知らない。サラモウアに繋がっていないのかもしれない。しかしいずれにせよ、我々はその道を歩くしかなかった。(『指の骨』より)
それ以外だと、2005年の受賞作『冷たい水の羊』(田中慎弥彦)みたいな硬派で重厚な作品や、2016年の受賞作『縫わんばならん』(古川真人)みたいな淡泊で落ち着いた文体の作品が目に付く。(なお、両名は後に芥川賞を受賞する)
総じて、「新潮新人賞」は、そうした「硬派」で「正統的」な作品を評価する傾向にあると見ていいだろう。
この辺りから「伝統ある文学賞」の矜持と貫禄が感じられる。
特徴②「“独自性”も評価される」
新潮新人賞の作品の多くが「硬派」で「正統的」で近代文学の伝統に連なるような作品が多いことを確認してきた。
確かにそれは事実だ。
だけど、それと矛盾するようなことを言うようだが、中には「独自の哲学」を持つ作品や、「挑戦的な試み」をした作品や、「個性的」な作品というのも散見される。
「独自の哲学」を持つ作品でいえば、たとえば中村文則の『銃』(2002年授賞)が上げられる。
中村文則は今や世界的にも注目される大作家となっているが、彼が一貫して書き続けている文学のテーマに「人間に自由意志はあるか」といったものがある。
いわゆる、この世界の「不条理」を書いているワケだが、そうした作者の哲学が受賞作『銃』には確かなものとして描かれている。
ちなみに中村文則は、『新潮』に掲載された作品『土の中の子供』で、2005年に芥川賞を授賞している。
次に「挑戦的な試み」をした作品でいえば、たとえば高橋弘希の『指の骨』(2014年授賞)なんかが挙げられる。
「リアリズム的文体」が高く評価されたこは先ほども紹介した通りだが、それ以外にも「戦争を知らない作者が、戦争を描いた」という“挑戦的な試み”も評価された。
最後に「個性的」な作品で言えば、たとえば上田岳弘の『太陽』(2013年)が上げられる。
「不老不死を実現した人類」というSF小説の授賞は、新潮新人賞的にも珍しい。
それから鴻池留衣の『二人組』(2016年授賞)は、かなり突き抜けている。
砕けたフランクな文体で描かれるのは「自意識が強い男子中学生の内面」だ。
恋愛とか、性欲とか、生々しくも清々しい作品で、歴代の受賞作と比較するとやや異色。
近年は、こうした「個性的」な作品の受賞が目立ち始めている。
以上を、まとめると、
基本的に「硬派で正統的な作品」が好まれる傾向がある。
ただし、近年は、「独自の哲学」「挑戦的な試み」「個性的」
そうしたオリジナリティある作品の受賞が目立つ。
特徴③「“構成力”が求められる」
新潮新人賞の枚数と、他の新人賞の枚数を比較してみると、次の通り。
「新潮新人賞」とよく同列に扱われるのが「文學界新人賞」だ。
2つは歴史ある文学賞で、「正統派」の授賞が目立つ。
ただ、両者の枚数を比べてみると、新潮新人賞の方が100枚も多い。
ここから言えることは、
新潮新人賞では、中編から長編に対応できる“高い構成力”が要求されている
ということだろう。
実際に、新潮新人賞の近年の受賞作を見てみると200枚前後の作品がほとんど。
そして、そのどれもが、綿密なプロット(構成)を有している。
『公募ガイド』や、『文学賞メッタ斬り!』なんかを読んでいると、新潮社の「新人育成力の高さ」が盛んに言われているようだが、おそらくその「育成力の高さ」と「規定枚数の多さ」とには深い関係があると思われる。
つまり、新潮側としては、ある程度「長文を書けそうな人材」を探していて、それをきちっと育てていこうという思いを持っているということなのだ。
ちなみに、「新潮新人賞」と「芥川賞受賞」のダブル受賞というのはあまりない(最近では2017年の石井遊佳だけ)
だけど、新潮新人賞でデビューした後で、芥川賞というパターンが近年は結構多い。
- 小山田浩子(2010年)
- 高橋弘希(2013年)
- 古川真人(2014年)
- 上田岳弘(2016年)
これは「新潮」の育成力の高さを示す、1つの根拠だといって良いと思う。
なにより、中村文則を育て上げた「新潮」の功績はとてつもなく大きい。
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オススメの3作品
僕は新人賞への応募に際して、とにかく受賞作や選考委員の作品を読みあさった。(オススメの方法については後述する)
すると次第に賞の傾向や特徴、選考委員にウケそうな要素というもの見えてきて、具体的な対策を練れるようになっていった。
それに、自分の作品と相性がいい賞というのが必ずあるので、「受賞作を分析する」というのは絶対にしておいた方がいいと思う。
以下では、新潮新人賞受賞作品の中から、特にオススメの3作品を紹介したい。
「新潮新人賞」らしい硬質な文体と高い構成力を持ちつつ、独自の色が光る作品ばかりを厳選してみた。
ちなみに作者はみな、後の芥川賞作家である。
中村文則「銃」(2002年)
新潮新人賞が生んだビッグネームといえば、間違いなく中村文則だ。
彼の文学を一口にいえば「不条理の文学」と言えるもので、多くの作品で
「人間に自由意志はあるか」
といった哲学を変奏して描き続けている。
そんな彼の哲学が色濃く表れたデビュー作が『銃』だ。
硬質な文体、構成力、主題、どれをとっても一級品で、参考にしたい1冊だ。
なお、同じテイストの作品に『遮光』、『掏摸』、『土の中の子供』があるので、そちらも参考にしておきたい。( いずれも「新潮」から出版された作品 )
上田岳弘「太陽」(2017年)
近年の新潮新人賞出身で、最も注目されているのは上田岳弘ではないだろうか。
彼も硬質な文体を持つ作家だが、SF要素の強い作風が特徴なので「こういう作品も評価されるのか」と言った具合に参考にできると思う。
デビュー作の『太陽』も「不老不死が実現した人類」を描いたSF小説だ。
小説を通じた「思考実験」ともいえる趣で、やはりこの作品にも作者の「哲学」のようなものがかいま見える。
もちろん、そうしたテーマも参考に出来ると思うが、やっぱり文章が上手なので、そちらも研究のしがいがあると思う。
高橋弘希「指の骨」(2014年)
最後は高橋弘希をオススメしたい。
個人的に、僕は彼の「無駄のない、適切なことば選び」が気に入っている。
高橋弘希は、近代リアリズム小説(写実小説)の伝統を強く受け継いでいる現役作家の1人だといっていいと思う( ちなみに堀江敏幸は神…… )。
そんなリアリズム的手法で書かれたのが、作者が経験したわけじゃない「戦争」のリアル。
そしてこの作品には、不思議なリアリティと説得力がある。
最大の理由は、高橋弘希の文章力にあるといっていい。
安定安心の表現力で、こうした作品を読むと「新潮新人賞らしいなあ」と思う。
ちなみに、戦争経験もない作者が戦争を書いたことに対して、
そんなことができるの?
っていうかしていいの?
あまりに不遜じゃない?
といった批判があったのも事実。
だけど、ちょっと前の群像新人賞でも、震災を経験していない人の“震災文学”が授賞していたワケで、文壇的には全然アリなのだろう。
効果的に「対策」をするには
純文学新人賞への応募を検討している方は、その対策として「過去の受賞作」や「受賞作家の作品」を数多く読む必要がある。
こうした作品を分析することの大切さは、多くの選考委員や編集者が口をそろえて言っていることだ。
特に「過去の受賞作品」を読む意義は大きく次の2つ。
- 賞の傾向や特徴を把握できること。
- 過去の作品との類似を避けられること。
この2つは一見矛盾するようだけれど、どちらも大切なことだ。
賞の性格にそぐわない作品を投稿することは、いわゆる「カテゴリーエラー」となってしまうし、過去の作品との類似は、その時点で「新人賞としてふさわしくない」とみなされてしまうからだ。
そこで、「過去の受賞作」や「受賞作家の作品」を格安かつ効率的に読むためのオススメサービスを2つ紹介しようと思う。
どちらも読書家や作家志望者にとって人気のサービスなので、ぜひ利用を検討していただければと思う。
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純文学新人賞の過去の受賞作だけでなく、宇佐見りん や 今村夏子、川上未映子、羽田圭介、遠野遥などの人気芥川賞作家の作品 、さらに執筆関係の書籍 が 月額1500円で聴き放題。
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