解説・考察・あらすじ「セブンティーン」の原作『色違いのトランプ』

文学
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はじめに「バイアスなしで解説!」

 この記事はネタバレを含みます!

本書『はじめての』は、4人の直木賞作家による短編集だ。

島本理生、辻村深月、宮部みゆき、森絵都……

どれも今のエンタメ文学を牽引する、超売れっ子作家だ。

そんな売れっ子作家と、人気アーティストとのコラボ企画で生まれた本書

【YOASOBI×直木賞企画】『はじめての』解説記事はこちら
1、解説・考察・あらすじ『私だけの所有者』(島本理生)
2、解説・考察・あらすじ『ユーレイ』(辻村深月)
3、解説・考察・あらすじ『色違いのトランプ』(宮部みゆき)
4、解説・考察・あらすじ『ヒカリノタネ』(森絵都)

ちなみに、僕はその楽曲は1回たりとも聞いていない。

ということで、この記事は、楽曲によるバイアス一切なしで書かれている。

特に「考察」の部分に関しては、ひょっとして、楽曲とは全然違う解釈となっているかもしれないけれど、それはそれとして読んでいただければ嬉しい。

以下、『色違いのトランプ』(宮部みゆき)について

  • テーマ
  • 登場人物
  • あらすじ
  • 考察

の4項目について書いていこうと思う。

それでは、ぜひ、最後までお付き合いください。

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テーマについて

「はじめて容疑者になったときに読む物語」

平行した2つの世界を描いたSF小説

「色違いのトランプ」というタイトルには、マイノリティとして生きてきた女の子の「苦悩」と「孤独」が表れている。

そんな彼女たちが、最後に出した結論は一体なにか。

――自分自身であろうとすること。

この作品には、そのことの「代償」と「尊さ」が描かれている。

登場人物について

宗一(第1境界)
……妻(瞳子)と一人娘(夏穂)の3人家族。どこにでもいる平凡な夫であり父であり、娘の夏穂からその性格や生き方を批難されている。平行世界である「第2境界」に保護されている夏穂を連れ帰るため“あっちの世界”へと渡る
瞳子(第1境界)
……宗一の妻であり、夏穂の母。夫同様、どこにでもいる平凡な妻であり母であり、娘の夏穂からその性格や生き方を批難されている。ひょんなことから夏補の「秘密」に気づいてしまったが、それを宗一にずっと黙っていた。
夏穂(第1境界)
……宗一と瞳子の1人娘。「トンビがタカを産む」よろしく、平凡な両親とは似ても似つかぬ「正義感」「行動力」を持っていて、両親に対しても反抗的な態度を取る。第2境界の世界を変えようという志を抱き、“あっちの夏穂”と入れ替わる計画を立て、第2境界に移り反政府組織の一員になる。
宗一(第2境界)
……平行世界である「第2境界」に生きる“あっちの宗一”。第一境界の宗一とは対照的で、強い「正義感」と「行動力」がある。反政府組織のリーダー的存在でもあり、メンバーからは「ファーザー」と呼ばれている。娘の夏穂の「弱さ」に失望し、彼女のことを見限っている。
瞳子(第2境界)
……平行世界である「第2境界」に生きる“あっちの瞳子”。第一境界の瞳子とは対照的で、強い「正義感」と「行動力」がある。反政府組織に所属し、自爆テロを起こして亡くなった
夏穂(第2境界)
……平行世界である「第2境界」に生きる“あっちの夏穂”。第一境界の夏穂とは対照的で気が弱く、反政府組織に所属する両親の元で苦しい思いをしている。第一境界の夏穂と入れ替わり、“こっちの世界”で暮らすことになる。

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あらすじ(900字)

7年前の「爆発事故」によって、人々は第1境界(あっちの世界)と第2境界(こっちの世界)を行き来できるようになった。

第一境界と第二境界は、ちょうど「鏡」のような関係で互いに似通っている。

ただし、政治や社会システムには大きな違いがあり、たとえば、第2境界の日本は「軍国主義」による政治が行われていた。

物語は「第1境界」で始まる。

ある日、「人定管理局」なる機関に夏穂が保護されてしまう

その理由は「第2境界の夏穂を逮捕・拘束する準備のため」らしい。

軍国国家である第2境界の日本には「反政府組織」があり、“あっちの夏穂”そのは一員としてテロ活動をしているという。

連絡を受けた瞳子と宗一は、保護されている夏穂と面会すべく「人定管理局」を訪れる。

だが、そこに夏穂の姿はなかった。

夏穂はすでに第2境界へ移送されていて、そこで「人定」を受けているという。

「人定」というのは、「この夏穂は、ほんとうに“こっちの夏穂”なのか?」を見定めることで、つまり、管理局には「“こっちの夏穂の”誤認逮捕」を避けようとしていたのだった。

宗一は夏穂を“こっちの世界”に連れ戻すべく、第2境界への「渡界」をする。

第2境界に着いた宗一は、無事夏穂に会うことができた。

彼女の体はバンドやベルトで固定され、頭には無数の「嘘発見器」が取り付けられ、職員らによる徹底した「人定」が行われていた。

その結果、夏穂は確かに「第一境界の夏穂」であると認定される。

が、次の瞬間、人定室に武装した「別の夏穂」が現れ、エネルギー銃を操り手際よく職員らを打ち倒した。

突然の出来事に目を丸くする宗一。

彼女は宗一に対して、ことの経緯を説明した。

  • “あっちの夏穂”は、第2境界にふさわしくないほど弱虫であったこと。
  • 自分は第2境界の「反政府組織」に加入して、持ち前の正義感を発揮したいこと。
  • 「強い夏穂」と「弱い夏穂」が入れ替われば、それがお互いのためになること。
  • もうすでに自分と“あっちの夏穂”との入れ替えは済んでいること。
  • そして、自分は今こうして、第2境界で政府と戦っていること。

そんなわが子の話を聞いた宗一は、彼女の思いを受け止める。

そして、“あっちの夏穂”を「わが子」として第一境界に迎え入れ、いつか来る「第2境界の平和」を願うのだった。

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考察「“容疑者”とは誰のことか」

『色違いのトランプ』のテーマは「はじめて容疑者になったときに読む物語」ということで、よくよく考えれば とんでもないテーマだし、できれば生涯で読みたくない物語といえる(失礼)。

さて、この“容疑者”というのが一つのキーワードだとすれば、『色違いのトランプ』における“容疑者”とは一体だれを指しているのだろう

まっさきに思い浮かぶのは、人定管理局に目をつけられた「第二境界の夏穂」だろう。

もちろん、彼女が“容疑者”であり、政府から追われる存在であるのは間違いない。

だけど、僕があえて目をつけたいのは宗一、瞳子夫妻だ。

物語のラストシーンで、こんな一節がある。

「あちらの法律に照らしたら、あなたもわたしも国家反逆罪を犯しているらしいわ」

あるとき、ぽつりと瞳子が言った。

「こっちでも、境界協定基本法違反だ」

「夫婦で罪人なのね」

「まだ罪になると決まったわけじゃない。容疑者だよ

ここでいう「国家反逆罪」とか「境界協定基本法違反」とは、宗一たちが「“あっちの夏穂”を迎え入れていること」「夏穂同士の入れ替えに加担していること」を指している。

そして、彼らの違反行為は、いまだ国家の知るところではない。

だからこそ、

「“罪人”ではなく“容疑者”だ」

と、宗一は言っているワケなのだが、それにしてもこの時の彼には「不安」とか「うしろめたさ」といった類いの屈託はほとんど見られない。

それは、このときの宗一の胸には、強い思いがあるからなのだろう。

その彼の思いとは、言うまでもなく、「わが子の正義を肯定してやること」であり、「わが子の帰りを待ちづづけること」であり、そして「2人の夏穂を実の娘として受け止めること」である。

ここには、「平穏な生活」を願うだけだった、かつての宗一の姿はない。

それは瞳子も同様だ。

――第2境界で戦う娘のためにも、強い両親であろう。

「自分たちは容疑者だ」という言葉には、そんな彼らの強い思いが表れている。

「容疑者になる」という言葉は、物語において「困難を受け止め、それに立ち向かいながら生きていくこと」のメタファーといえるのではないだろうか。

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おわりに

以上、『色違いのトランプ』の考察と解説を終えたい。

ご存じの通り、この作品は人気アーティストYOASOBIとのコラボ企画で誕生したものだ。

正直、僕は、彼らの”これまでの”楽曲の「オリジナル」を極力読まないようにしてきた。

というのは、大ヒット曲「夜にかける」のオリジナル作品を読んだとき、妙に鼻白んでしまったからだった(ファンの皆さんごめんなさい)。

つまり、楽曲とオリジナルとのギャップを感じてしまったのだ。

だから、僕がこの本書を手に取ったのには、この4人の作家への信頼がある

僕はこの4人の直木賞作家の作品を多く読んできたし、彼らが紡ぎ出す世界観を信頼している。

そして、この短編集は、そんな僕の信頼にこたえてくれるものだった

文学好きの人にとっても、音楽好きの人にとっても、この記事があなたの何かの参考になったなら嬉しいです。

以上、ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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