解説・考察『日本文学史序説』(加藤周一)―あらすじ・要点を分かりやすくまとめる―

文学
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はじめに「本書について」
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日本文学史序説は、日本の文学者で批評家の加藤周一の代表作だ。

タイトルは「文学史」をうたっているが、ここに収録されているのは文学に限らず、哲学、宗教、歴史書といった具合に、日本の思想全般を幅広く網羅している

そのため、「文学史」というよりも「日本思想史」といったほうが実態に良くあっている。(しかし、本人は頑なに「文学史」であることを強調している)

本書は世界7ヶ国で翻訳されており、もはや、日本を代表する古典といってもいい

そんな本書には、どんな内容が書かれているのか。

以下では、それを3つのポイントに整理して、分かりやすく簡単に解説をしていく。

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日本文学とは何か

まず、加藤周一は「日本文学」をどのように定義しているかを整理しよう。

【 日本文学の定義 】

詩・小説・戯曲・文芸批評のみならず、日本人の“土着思想”を内包する、あらゆる言語表現。

こうしてみれば、一目瞭然。

加藤周一にとっての文学とは、既存の枠組を超えた、より広義なものなのだ。

だからこそ、彼の『日本文学史序説』には詩・小説・戯曲・批評のみならず、宗教や哲学なんかも取り上げられいる。

いや、もっといえば、加藤は「書かれなかったもの」や「世にでまわらなかったもの」までも、「日本文学」として捉えようとしている。

それをよく表す加藤の言葉を、『日本文学史序説補講』より引用したい。

一揆の時の立札にさえも注目せざるをえない。

そういうものを私は大事にせざるをえない。彼らが文字を使って考えを述べたものだからです。それを「あれは文学じゃない」と切り捨てるなら、九〇%の日本人には〈文学〉はなかったことになる。そんなばかなことはない。

『日本文学史序説補講』より

加藤周一にとって日本文学とは、一部の特権を持つ人間の表現だけなく、無名の「個人」の生活に根ざした“思想”や“哲学”をも含んでいる。

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日本文化の特徴

次に、加藤周一は「日本文化の特徴」をどのように捉えているか。

それを整理する上で、日本文化の根っこにあるものを確認しなければならない。

【 日本文化の根っこにあるもの 】

・非超越的、此岸的、現世的、具体的、個別的な傾向。

→外来の宗教や思想を分解し「日本流」に変容させながら受容していく。

これが日本人の「根本」にあるものである。

丸山真男はそれを、日本人の「古層」と呼び、加藤周一は「土着思想」と呼んでいる。

基本的に日本文化は、こうした日本人の土着思想が影響しながら形成されてきた。

もちろん「日本文学」も例外ではない。

加藤周一は、そんな日本文学を3つのタイプに分類している。

【 日本文学の3つのタイプ 】

1、ほぼオリジナルの外来思想が採用されたもの

2、日本人の土着思想が表れたもの

3、外来思想が日本化したもの

いうまでもなく日本人にとって最初の外来思想とは「仏教」である。

輸入当初、仏教はそのオリジナリティを保っていた。

しかし、それはあっという間に(あるいは時間をかけて)「日本化」していった。

つまり、日本の土着思想である「神道」と融合していったのである。

これがいわゆる「神仏習合」(シンクレティズム)というヤツだ。

これ以外にも、様々な外来思想は「日本化」されてきた。

加藤周一は、主に次の4つを挙げている。

【 4つの主な外来思想 】

1、中国からきた「仏教」

2、西欧からきた「キリスト教」

3、中国からきた「儒教」

4、西欧からきた「マルクス主義」

これら4つは、もともと「超越性」(人間を超えた世界観)や、彼岸性(現世を超えた世界観)、「包括性」(個を覆い尽くす性質)、「抽象性」(個を捨象する性質)などを持つ思想だった。

それが日本化されるとどうなるか。

たとえば、死後の世界を志向する仏教やキリスト教は現世利益を説くものとなり、天を絶対原理に据える儒教は、世俗の道徳を説くものとなった。

どれも、非超越的で此岸的で具体的な性格を備えたものだ。

あるいは、西洋から輸入された「文学」は、明治から昭和初期にかけて「自然主義」といった形に姿を変え、そこでは作家の個別的で具体的な生活が記された。

これも、日本の土着思想による具体化や世俗化の結果である。

こんな風に、日本文化は、日本人の根本である「古層」や「土着思想」に大きく影響を受けてきたといえる。

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日本文学の転換期

加藤周一は、日本文学が大きく変容した「転換期」を大きく5つ挙げている。

【 日本文学の転換期 】

第1転換期・・・9世紀の平安時代

第2転換期・・・14世紀の鎌倉時代

第3転換期・・・17世紀の江戸時代

第4転換期・・・19世紀の明治時代

第5転換期・・・20世紀の戦後

これを超超超シンプルに解説をすると次の通り。

まず、第1転換期は平安時代

仮名文字が普及し、いわゆる国風文化が栄えたこのころ、漢字や漢文にとらわれない「仮名文字文学」が主に女性の手によって生まれた。

中国からの影響を薄めた「日本の土着思想」の色濃い文学が多く誕生したのが、平安時代い高だったといっていい。

次に、第2転換期は鎌倉時代

源平による争いをきっかけに、中央主権的な貴族社会が崩壊。

また、たび重なる戦乱によって、人々の生命が脅かされた。

そんな世にあって、人々のうちに「自分のことは自分でなんとかするしかない」といった「個人の意識」が芽生える。

すると、宗教界では庶民を中心に新仏教が生まれる。

また、個人意識の芽生えは大衆を生み、芸能の方面で能や狂言といった「大衆文学」を生むに至る。

次に、第3転換期は江戸時代

このころ、日本にキリスト教がやってきた。

また、武士を中心に儒教が普及していく。

こうして、仏教以来の本格的な外来思想が日本で広がる。

思想界では、仏教・キリスト教、神道・儒教による丁々発止の議論が展開される。

また、戦乱の世が終わった「太平の世」にあって、庶民を対象に「人情本」や「洒落本」といった他ジャンルにわたる「戯作」が生まれる。

次に、第4期転換期は明治時代

この時期は、なんといっても日本の近代化である。

欧米諸国から様々な技術や思想を取り入れ、日本が大きく様変わりした時代。

西欧から「文学」が輸入され、それを日本化しつつ受容していったのがまさにこの頃。

いわゆる「日本近代文学」の幕開けである。

最後に、第5転換期は戦後

米国の指令により民主化がすすみ、人々のリベラリズムが一層強くなる。

また、高度経済成長による発展は、現代の大衆社会を生み出す。

より強固になる「個人主義」や「自由主義」

一方で、じわじわと広がる「閉塞感」

そんな中、作家はこれまでの価値観を超えるような、新しい文学を模索しだす。

いわゆる「ポストモダン文学」なんかも生まれてくる。

現代文学というのは、まさにこの戦後の「第五転換期」の延長にあるといっていい。

なお、加藤周一によれば、転換期は約100~300年周期でやってくるという。

現在、戦後から約100年。

第六転換期がくるのは、いつだろう。

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