はじめに「エンタメ小説の新人賞」
エンタメ小説とは純文学に対置されて語られることが多く、別名「大衆文学」と呼ばれたりもする。
「エンタメ小説」と「純文学」両者の違いついては、こちらの記事 【 【純文学とエンタメ小説の違い】を分かりやすく解説 】 を参考にしてほしいのだが、「エンタメ小説って何?」という問いにシンプルに答えるならば、
「読者を飽きさせない面白い物語」
ということになるだろう。
そんなエンタメ小説を対象にした、公募の新人賞は数多くある。
これについても、詳しくはこちらの記事【 【公募エンタメ小説新人賞】の傾向・特徴を徹底解説 】を参考にしてほしいのだが、その中でも「ジャンル問わず」広く募集をかける長編新人賞が次の4つである。
この4つの賞が他の新人賞と異なる点は、いわゆる「ノンジャンル系」の小説を受け入れる点だ。
また、それぞれの賞には、それぞれの賞の“色”というものがあるので、たとえば、「エンタメ小説を書いて、小説を応募してみたい!」という思いがある人は、各賞の傾向や特徴を把握しておく必要がある。
ということで、今回は「小説現代長編新人賞」(講談社)について解説をしてみたい。
記事では主に「賞の概要」と「賞の特徴と傾向」、「代表的な受賞作」についてまとめていく。
また、最後に作品を書く上での「効果的な対策方法」と、その「おすすめサービス」について紹介するので、ぜひ参考にしていただければと思う。
参考までに、恥ずかしながら僕の「執筆経歴」については(ぱっとしないけど)以下に挙げておく。
では、どうぞ、最後までお付き合いください。
概要をチェック
詳しい解説に入る前に、まずは賞の概要をチェックしておく。
※小説現代長編新人賞のHPはこちら。
出版社 | 講談社 |
賞金 | 300万(+記念品) |
枚数 | 83枚~167枚 (30字×40行) |
応募締め切り | 7月末 |
発表 | 3月 |
応募総数 | 800~1000編程度 |
主な受賞者 | 朝井まかて(2008年)など |
その他 | 必ず単行本化 |
特徴➀「歴史と伝統」ある新人賞
「小説現代長編新人賞」の傾向や特徴を解説する上で、この賞の「歴史と現状」について簡単に触れておきたい。
小説現代長編新人賞を主催するのは『小説現代』という講談社が発行する小説誌だ。
この賞の歴史はかなり長く、前身の「小説現代新人賞」(短編の公募新人賞)の第1回は1963年のこと。
その後、2006年に「長編小説」を対象にして、現行の「小説現代長編新人賞」になったわけだが、ここまでの歴史と伝統を持つエンタメ系の新人賞は少ない。
前身の「小説現代新人賞」時代に輩出した作家は数多い。
例えば、五木寛之なんかはこの賞の出身者だ。
ちなみに、この頃の小説誌『小説現代』はいわゆる「黄金時代」で、昭和を代表する作家たちがこぞって参加し、『オール讀物』、『小説新潮』に並んで中間小説誌の御三家とまで呼ばれていた。
まさに「飛ぶ鳥落とす勢い」だった『小説現代』
だが、2000年代に入り、その雲行きは怪しくなっていく。
まず、「小説現代長編新人賞」になった後、大物作家をほとんど輩出していない。
例外として、2008年に本賞でデビューした「朝井まかて」の活躍はめざましく、2014年には直木賞の受賞を果たしたものの、それ以外の作家で目立った活躍をしている者は少ない。
そして、売り上げも次第に低迷。
黄金時代には40万部ほどあった売り上げは、近年になって1万部程度まで落ちてしまったという。
間違いなく、いま「小説現代長編新人賞」は、起死回生の一手を模索していると考えられる。
その大きな1手が、2018年の小説現代の「リニューアル」だったのだろう。
特徴➁『小説現代』がリニューアル
『小説現代』は小説誌の中ではまぎれもない「古参」で、その読者の年齢層も高かった。
産経ニュースの記事によれば、これまでの中心読者の年齢層は「50代~70代」ということ。
『小説現代』の売り上げの低迷の要因として、おそらく「若い読者の獲得」がうまくできなかった点があげられる。
だからこそ、約1年半の休刊を決断し、本誌は2018年のリニューアルに至ったのだろう。
リニューアルに先立ち、これまでの「連載ものが中心」だった誌面づくりをやめて、「長編小説の一挙掲載」を目玉に、毎号読み切れる雑誌を目指した。
そうした動きが功を奏す。
その代表が、真藤順丈の『宝島』の登場だ。
『宝島』は2018年に『小説現代』に一挙掲載され、若者を中心に大ヒット。
同作は、そのまま直木賞を受賞した。
唐突に評論家ぶるわけじゃないけれど、現代の若者たちの「活字離れ」が進んでいる。
ちょっとでも「読みにくい」と感じれば、その作品からは離れていってしまうし、「分かりづらい」と思えば、途中で作品を放り出してしまう。
「前回からの流れ」が分からなければ作品に入っていけない「連載もの」は、いまや時代の要請にあっていなかったということなのだろう。
繰り返すが、2018年の『小説現代』のリニューアルは、そんな時代の要請に応えるものだ。
これまで「イラスト」が中心だった表紙を改め、「ジャニーズ」や「若い俳優・女優」の写真を採用したのも、若い読者層を獲得するためだと思われる。
そして2021年には編集長として、これまで数々の話題作を生み出してきた「河北壮平氏」が就任。( 参考記事はこちら )
『小説現代』は、あらゆる策を講じて、「新たな小説現代」を目指しているようだ。
特徴➂「若い読者がターゲット?」
さて、前置きがとっても長くなってしまったが、僕は近年の「小説現代長編新人賞」も少しずつ変化してきていると感じる。
具体的には、「若い読者をターゲット」にしてきていると思うのだ。
その理由として、まず、受賞者の年齢が年々若くなってきている点があげられる。
2017年以前は30代や40代の受賞者が散見されたが、2018年以降は10代や20代の受賞者が目立ち始めている。
また、受賞作を読んでみても、「若い世代をターゲットにした作品」が多くなってきていると感じる。
たとえば、2018年に受賞した神津凛子『スイート・マイホーム』。
いわゆる「イヤミス」(嫌な読後感が残るミステリー)を通り越して、世にもおぞましい「オゾミス」とのキャッチフレーズによって話題になった作品で、2023年には映画化。
話題通りの刺激的な読後感は、やはり若者向けだと感じる。
2019年に受賞した 鯨井あめ『晴れ、時々くらげを呼ぶ』は、現役大学生による「高校生の成長物語」
登場人物の繊細な心理描写が印象的で、文章はとても読みやすく、ノンストレスで読み切れる作品となっている。
2020年の受賞作品 珠川こおり『檸檬先生』は、小説現代長編新人賞における「史上最年少受賞」作品。
作者の 珠川こおり はなんと18歳の現役高校生
「共感覚」(音が見えたり景色が聞こえたり)を持つ中学3年生の少女と小学3年生の少年の出会いの物語。
文章や会話文がとにかくライトで、良くも悪くも「ラノベ」っぽい青春小説なので、活字離れの若者を引き留めるのに適した作品だと思う。
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『レぺゼン母』(宇野碧)がオススメ
最後に僕のオススメの作品を紹介したい。
それは2021年の受賞作品、宇野碧の『レペゼン母』だ。
本作は、ここ数年の受賞作の中では頭1つ抜けていると思う。
まず、小説の設定・ストーリー・人物造形、何をとっても新しくて、まさに「新人賞」の名にふさわしい。
そして、とにかく「母」の存在がぶっとんでいて、そのほとばしる熱量に圧倒される。
借金、詐欺、大麻に依存するダメ息子とのギャップもすごい。
何よりも、「ラップをする肝っ玉おかん」という発想が面白すぎる。
泣けて、笑えて、そしてまた泣けて、だけどやっぱり笑えて……と、白状すれば、こんな作品を書ける作者に僕は嫉妬を覚えた。
最近の受賞作を見て、個人的に不満がないわけではなかったけれど、この『レぺゼン母』を読んだとき、
こんな作品を発掘できる「小説現代長編新人賞」の未来は明るい!
と僕は思った。
今後も「小説現代長編新人賞」に注目していきたい。
【 参考記事 感想・解説『レぺゼン母』(宇野碧)—ラップという”魂の対話”に落涙必至!— 】
効果的に「対策」をするには
小説現代長編新人賞への応募を検討している方は、その対策として「過去の受賞作」や「受賞作家の作品」を数多く読む必要がある。
こうした作品を分析することの大切さは、多くの選考委員や編集者が口をそろえて言っていることだ。
特に「過去の受賞作品」を読む意義は大きく次の2つ。
- 賞の傾向や特徴を把握できること。
- 過去の作品との類似を避けられること。
この2つは一見矛盾するようだけれど、どちらも大切なことだ。
賞の性格にそぐわない作品を投稿することは、いわゆる「カテゴリーエラー」となってしまうし、過去の作品との類似は、その時点で「新人賞としてふさわしくない」とみなされてしまうからだ。
そこで、「過去の受賞作」や「受賞作家の作品」を格安かつ効率的に読むためのオススメサービスを2つ紹介しようと思う。
どちらも読書家や作家志望者にとって人気のサービスなので、ぜひ利用を検討していただければと思う。
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小説現代長編新人賞の人気作家 朝井まかての代表作をはじめ、など、角田光代、西加奈子、窪美澄、辻村深月、天童荒太、佐藤正午などの多くの直木賞作家の作品 、さらに執筆関係の書籍 が 月額1500円で聴き放題。
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対象の作品には、朝井まかてなどの本賞出身作家の作品をはじめ、角田光代、原田マハ、西加奈子、辻村深月、伊坂幸太郎、森見登美彦、池井戸潤などの、数々の人気エンタメ作家たちの作品も含まれている。
もちろん、執筆関係の書籍も充実しているので、小説家を目指す人にとって便利なサービスとなっている。
Audible同様、こちらも30日間の無料体験ができるので、Audibleと合わせて試してみることをオススメしたい。
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