はじめに「源氏の男たちはクズ?」
『源氏物語』といえば、日本を代表する古典である。
その“凄さ”は語りだせばキリがない。(詳しくはこちら 解説まとめ「源氏物語の凄さ、人気の理由、なぜ読み継がれたかを分かりやすく簡単に」 )
日本人だけでなく、世界からも高い評価を得ている。
ただ『源氏物語』と聞いて、次のように思う人もまた多い。
「源氏物語? ああ、クズたちが沢山でてくる話でしょ?」
「光源氏? ああ、女を人とも思わない気持ち悪い男でしょ?」
こうした評価が果たして妥当なのかについては、読者の主観に委ねざるをえない。
ただ“火のないところに煙は立たなない”というように、「クズ」とか「気持ち悪い」とか言われるような内容が、間違いなく『源氏物語』にはある。
この記事では、『源氏物語』に登場する主要人物のクズっぷりを、具体的に簡単に紹介しようと思う。
参考にした書籍はこちら。
歯に衣着せぬ物言いで、源氏の男たちをぶった切る、愉快痛快でご機嫌な(なのに最後には涙がこぼれる)1冊である。
興味のある方は、ぜひこちらの書籍も手に取ってみてください。
クズエピソード①光源氏
とにかく彼は、絶世のマザコンである。
急いで強調するが、マザコンがクズなのではない。
そのマザコンをこじらせて、多くの女性と契りまくる、その性癖がクズなのである。
その根本は、彼は3歳のころにある。
母親の桐壷更衣と死別。
その亡き母の面影を追うように、継母の藤壺女御を慕うようになっていく。
藤壺は、亡き母にそっくりだったからだ。
源氏は元服後(つまり、成人になり)、そんな憧れの継母と密通。
しかも子供までこしらえる。
さすがに、こんな関係を続けていくわけにはいかない。
そう藤壺と距離を取る光源氏だったが、成人になった彼の性欲は、誰にも止められない。
イトコであり、親友であり、ライバルでもある頭中将という男と「女性漁り」に耽るようになるわけだが、ここで頭中将はこんなアドバイスを源氏にする。
「上級貴族の女はお高くとまっていけない。下級貴族の女は教養がなくダメだ。中級貴族がほどほどで、しかも手ごろにヤ〇るぞ」
そんな言葉を真に受けた光源氏は、旅の道中で見つけた中級貴族(夕顔)を人気のない廃屋に連れ込み、無理やり契る。
しかも、その女性は源氏と契っている最中に変死。
やべーやべーと思った源氏は、その女性を置き去りにしたまま、そそくさとその場を去る。
一事が万事、基本的に光源氏という男は、こんな風に女性を人とも思わないような振る舞いをする男なのだ。
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クズエピソード②光源氏
女性を人とも思わない男、光源氏。
その根っこには、「満たされない母性愛」があるといっていい。
後の最愛の妻であり、物語のヒロイン紫の上をめとったのだって、「継母である藤壺女御にそっくりだったから」という理由から。
紫の上 ← 藤壺に似ている ← 亡き母桐壷更衣に似ている
という構図である。
つまり、紫の上も、藤壺女御も、結局のところは亡き母の「身代わり」であり、もっと露骨な言葉をつかえば「代用品」なのである。
マザコンがクズなのではない。
人を人とも思わない、そういう性癖がクズなのである(2回目)
なお、源氏と紫の上の出会いは、源氏18歳、紫の上10歳ころとなる。
年端もいかぬ少女に一目ぼれをした光源氏、なかば強制的に彼女を自宅に引きいれる。
いろんな教養を教えたり、全裸になって抱きしめたり(!?)しながら、自分好みの女性に育て上げる。
そして彼女が成人したら、満を持して契る。
「幼い女子を自分好みにそだてあげ、成人後に結婚する」
こうしたおぞましい所業は、一般的に「光源氏計画」と呼ばれ、気持ち悪いクズ野郎たちの口の端に上ることが多い。(しらんけど)
光源氏はマザコンだけでなく、ロリコンなのである。
そのロリコンっぷりは、源氏40歳のころに20歳そこそこの女三宮を正妻にした辺りにも発揮されている。
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クズエピソード③桐壺帝
桐壺帝は、光源氏の実の父であり、時の権力者「天皇」である。
平安時代の婚姻制度については諸説があるものの、一般的には一夫多妻制と言われている。
(こちらも参考 解説「平安時代の結婚形態と特徴」一夫多妻は間違い?―『源氏物語の結婚』より― )
桐壺帝にも多くの妻がいたわけで、その1人に、光源氏の母となる桐壺更衣がいた。
桐壺帝はとにかく、この桐壺更衣をとんでもなく寵愛した。
別にこれ自体、妻を愛する純粋な心の表れであって、全然クズエピソードにはならない。
桐壺帝がクズなのは、自分の振る舞いが、多くの女性の嫉妬を買うことに無自覚なことであり、挙句の果てに桐壺更衣の死を招いてしまう点にある。
帝の妻にはランクがある。
中宮>女御>更衣(>典侍)
桐壺更衣は、ほぼ最下位の「更衣」である。
普通ちょっと想像すれば、分かるはず。
帝が身分の低い更衣を寵愛すれば、おもしろくないのは、同じ身分の更衣や、1つ上のランクの女御たちである。
「なんであんただけ、帝からかわいがられてんのよ」
そう思った女たちは、とにかく桐壺更衣をいじめたおす。
悪意ある言葉、噂などはもちろん、ひどいときは糞尿をばらまかれたこともあったようだ。
こうして桐壺更衣は、完膚なきまでに精神をやられてしまう。
そんな様子を見ていれば
「まずい、自分の寵愛のせいで桐壺更衣が憔悴している。少しは自重せねば」
と思うのがまともな神経の持ち主なのだが、ここらへんが桐壺帝のクズたるゆえんである。
弱り切った桐壺更衣をみるや、その恋情をいっそう募らせていく。
挙句、
「もう苦しいから、どうか実家に帰らせください」
と懇願する桐壺更衣に対して、
「僕の苦しみに比べれば、あなたの苦しみなんてたかが知れている。この宮中という場所で、この帝の僕に愛されているんだから、あなたは十分幸せ者だ」
とかいって、桐壺更衣を放そうとしない。
案の定、桐壺更衣は心身を崩壊させ、ついに死んでしまう。
直接手を掛けたのは、他の更衣や女御たちなのだが、桐壺更衣を死なせたのは、まちがいなく桐壺帝である。
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クズエピソード④頭中将
光源氏のいとこであり、親友であり、ライバルである頭中将。
光源氏に「中流貴族の女は、ほどよくヤ〇るぞ」とそそのかした張本人でもある。
ということで、頭中将は光源氏とは腐れ縁とでも言う仲であり、超無粋で下品な表現をするならば2人は“穴きょう〇〇”ということにもなる。
文字通り、同じ穴のムジナ、ということで、正真正銘のクズ野郎である。
だけど、頭中将のクズっぷりは、女性に対してというよりも、実の娘に対して、より一層 発揮される。
代表的な犠牲者は、玉鬘という生き別れになった娘である。
玉鬘は、夕顔という行きずりの女との間にできた子だったので、頭中将は玉鬘を認知しない。
そんな境遇の玉鬘は、夕顔の死後、筑紫(現在の福岡県)へ下り、そこそこ平穏な日々を過ごす。
そんな玉鬘が20歳ころのこと。
筑紫界隈では「めちゃくちゃ可愛い子がいるらしいぞ」ということで、玉鬘を求婚する男がわんさか現れる。
そんな噂を聞いた頭中将。
「そういや、そんな娘もいたな~」
なんて思いつつも、頭中将その玉鬘を自分の出世の道具として利用しようと考える、。
平安時代で出世するための黄金ルートは、娘を貴人と結婚させること。
なので、当時、男性の多くが、自分の出世のために、実の娘を利用していた。
そういう意味では頭中将を含め、当時の男たちの多くがクズだったといえる。
そんな感じで、筑紫から京に呼び戻された玉鬘は、あろうことか光源氏の養女として引き取られてしまう。
幸い一線は越えなかったものの、恋愛感情をこじらせた光源氏(35歳)から、案の定軽くちょっかいをかけられる。
「やだわー、きもいわー」
そう思って光源氏をなんとか避けることに成功していた玉鬘だったが、最終的に髭黒という、むさ苦しいブ男にむりやり契られ、その妻となってしまう。
結局、いろんな男たちに振り回された玉鬘。
その元凶には、身勝手で権威主義的な頭中将というクズ親父がいるってわけである。
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クズエピソード⑤夕霧
夕霧は光源氏の実の息子。
いちおう実直でまじめというキャラ設定の夕霧。
彼は幼なじみである雲居雁という女性を一途に思い続け、結婚に至るという、源氏物語の中では稀有な存在である。
とはいえ、彼にもそれなりのクズエピソードがある。
雲居雁との結婚後、夫婦仲はよく、子宝にも恵まれた夕霧。
それで十分幸せだと思うのだが、結局、夕霧は満足できない。
ことの発端は、親友の柏木が死んだことだった。
柏木というのは、先ほど登場した頭中将の息子。
ということで、実は夕霧(光源氏の子)と柏木(頭中将の子)もまた、ある種の腐れ縁にあった。
柏木の死後、その未亡人である「落葉の宮」に執心し始める夕霧。
こうなってくると、夕霧もまた例外ではない。
平安の男たちがそうであるように、結局、夕霧もまた、落葉の宮とむりやり契る。
その結果、雲居雁は激怒。
夕霧は雲居雁と別居することになる。
「わかった、わかった、俺がわるかったよ。お前のことをちゃんと大事にするから」
そう心を入れ替えた夕霧は、1カ月の半分は正妻である雲居雁の下へ通い、もう半分は妾の落葉の宮のもとへ通うという行動に出る。
いやいや、真面目とか実直って、そういうことではないと思うんだけど……
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クズエピソード⑥柏木
さきほどの夕霧の親友であり、頭中将の息子である柏木。
そんな柏木は、主人公の光源氏と、大きな(そして宿命的な)共通点がある。
それは、「禁断の恋の果てに、不義の子を作ってしまう」ことだ。
ご存じの通り、光源氏は大好きな藤壺の女御と密通し、不義の子(のちの冷泉帝)が誕生する。
一方の柏木はというと、なんと光源氏の正妻である「女三宮」と通じ、不義の子(のちの薫)が誕生する。
宿命的な共通点、というのはそういう意味においてである。
光源氏としては、
「ああ、これは因果応報ってやつか。自分の行いは、こうやって自分自身に帰ってくるのね」
なんて反省をするようにみせかけて、自分の女を寝取った柏木を精神的に追い詰めていく。
「ああ、やっちまった。光源氏に嫌われたあら俺は生きていけない」
そう怯えまくる柏木を呼び出し、
「おまえ、俺のことバカにしてんだろ」
と、直球で詰める。
精神的に病んで病んで病みまくった柏木は、ついにこの世を去る。
自分には甘く他人には厳しい光源氏ではあるが、もとをたどれば人様の妻と無理やり契った柏木が悪い。
ということで、上記のエピソードは、やっぱりクズ人間の身から出たサビなのである。
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クズエピソード⑦薫と匂宮
柏木と女三宮との間に生まれた、不義の子「薫」
名前の由来はそのまんま。
そう、彼はめっちゃイイ匂いがするのである。
光源氏が視覚的に美しさが表現されているのに対して、この薫という男は嗅覚的に美しさが表現されており、その対比がおもしろい。
さて、この薫、上記のような複雑な出生の秘密があるため、もう登場した最初から、
「ああ、この世は生きづらいわ~、出家したいわ~」
という、ある種の厭世感を抱いている。
「この虚しい世にあって、女性との恋愛もまた、むなしいものだ」
そんなニヒルな態度をかましていた彼だが、結局のところ、自分の性欲に勝てない。
むしろ、その本質が「ムッツリスケベ」(死語)であるからこそ、陰湿でネチネチしたいやらしさを持っている。
まず、薫が最初に目をつけたのは、八の宮(光源氏の弟)という親王の娘たちだった。
娘たちの内訳は、長女「大君」、次女「中の君」、劣り腹「浮舟」である。
大君と中の君は正妻の娘、浮舟だけが妾の娘といった具合である。
まず長女の大君に目をつけた薫。
こまごました経緯は一切はぶくが、彼もまた、大君の自宅へ突入し無理やり契ろうとする。
だけど、大君は、そんな薫を全力で拒否。
そして、実の妹である中の君を生贄にささげ、自分は一目散に薫から逃げおおせる。
「私に似ている中の君をさしだせば、薫は諦めるでしょう」
そうした大君の思惑に、薫は、
「私をバカにしているのですか!」
といったんは怒るものの、その舌の根も乾かぬうちに、
「中の君! 私はあなたのことが忘れられない!」
とかいって、中の君に急接近。(なお、大君は世を儚んで拒食症になり死亡してしまう)
薫に言い寄られる中の君は、実はこの頃すでに、匂宮という、これまためっちゃイイ匂いのする親王と結婚している。
この匂宮も匂宮でクズ野郎なのだが、この男、なんとあの光源氏の孫なのである。
つまり、薫(柏木の子)と匂宮(光源氏の孫)もまた、宿命的な関係にある2人なのだ。
さて、そんな匂宮の妻となった中の君にちょっかいをかける薫。
それをうっとうしがる中の君、そこで彼女がでた行動は、
「自分にそっくりな女性を生贄にささげること」
だった。
姉も姉なら、妹も妹である。
こうして最終的に生贄に捧げられたのが、源氏物語きっての悲劇にヒロイン「浮舟」である。
大君の「身代わりの身代わり」として差し出された浮舟は、結果的に薫に無理やり契られ、その上さらに匂宮にも無理やり契られてしまう。
結果、浮舟は世を儚み、「自分は不要な人間だ」という究極の自己否定に陥り、自殺を図る。
しかし、それは未遂に終わる。
幸か不幸か生き延びた浮舟は、ついに出家。
「男もいらない、結婚もしたくない、ただひっそりと仏にすがって生きたい」
そう願ったのだった。
だけど、そんな浮舟のささやかな願いをぶち壊すがごとく、再び、彼女の前に登場するのが「薫」というクズ野郎なのである。
「浮舟が自殺したらしい」
そんな噂を聞いたとき、
「ああ、もう一発〇っておけばよかったなあ」
なんてクソったれな感想を抱いていた薫だったが、浮舟の生存を知るや、速攻でその居場所を突き止め「あわよくば、もう一発」を狙って訪問してくる。
それをきっぱりと浮舟が断るって場面で、『源氏物語』という作品は幕を下ろすのだが、
「徹頭徹尾、ここに登場する男たちってのは、しょうもないクズ野郎たちだなあ」
と思っちゃう読者が多いのも、うん、なるほど、頷けるなあ、と改めて思う次第である。
以上で、源氏物語の男たちの「クズエピソード」の解説を終わります。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
『源氏物語』オススメ現代語訳
世の中に数多くある「現代語訳」の中でも、僕がもっともオススメしたいのが、角田光代の現代語訳だ。
角田光代といえば、現代のエンタメ小説作家を代表する一人で、卓越した「人物造形」や細やかな「心理描写」が魅力的な作家である。
そんな彼女の筆による『源氏物語』は、読み応え抜群。
みずみずしい文体はとても読みやすく、人物関係が分かりやすいように書かれているので、初心者でも安心して読み進めることができる。
「マンガではものたりない! 原書はハードルが高くて無理! 源氏物語の世界を忠実に味わいたい!」
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