まとめ【公募エンタメ小説新人賞】の傾向・特徴を解説—作家志望の人は対策を!—

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はじめに

になりたい!

そう考えた時に一番手っ取り早い方法は「公募制新人賞を受賞すること」だ。

ただし、書き上げた作品を手あたり次第の賞に応募する、なんてことは絶対にやってはいけない。

「自分の作品がどのジャンルに属するのか」

まずはそのことを分析し、そのうえで、正しく応募先を検討しなければならない。

この記事では、おもに「エンタメ小説」の新人賞について解説をしていく。

  • エンタメ小説の新人賞について知りたい
  • 各新人賞の傾向や特徴について知りたい
  • 新人賞を取るための対策について知りたい

そんな人はぜひ最後まで読んでいただけると嬉しい。

また、最後に作品を書く上で便利な「おすすめサービス」についても紹介するので、そちらも参考にしていただければと思う。

参考までに、恥ずかしながら僕の「執筆経歴」については(ぱっとしないけど)以下に挙げておく。

【 出版経験 】

・地方文学賞受賞
地方限定出版

・地方新聞文学賞受賞
→ 地方新聞に作品が掲載
kindleで自費出版

・某小説投稿サイトで優秀賞受賞
某アンソロジー企画に参加
大手出版社より出版

【 新人賞における戦績 】

・オール読物新人賞 → 二次選考進出

・すばる文学賞 → 二次選考進出

・小説野性時代新人賞 → 二次選考進出

・小説すばる新人賞 → 二次選考進出

では、どうぞ、最後までお付き合いください。

エンタメ小説とは

「エンタメ小説」とは「純文学」に対置されて語られることが多く、別名「大衆文学」と呼ばれたりもする。

「エンタメ小説」と「純文学」両者の違いついては、こちらの記事【純文学とエンタメ小説(大衆文学)の違い】を分かりやすく解説ー新人賞応募のすすめーを参考にしてほしいのだが、「エンタメ小説って何?」という問いにシンプルに答えるならば、

「読者を飽きさせない面白い物語」

ということになるだろう。

なお、エンタメ小説はさらに次の種類に分けることができる。

・SF小説
 →科学的な空想に基づいた物語
・歴史小説
 →歴史的事実をもとに構築した物語
・時代小説
→歴史を舞台にしつつ架空の世界を描いた物語
・ミステリー小説
 →謎解きや推理を中心に展開する物語
・ファンタジー小説
 →空想や幻想的な世界観を描く物語
・ノンジャンル小説
 →上記のどれにも該当しない物語。

「SF小説」の代表格と言えば、星新一筒井康隆が大家であり巨匠といっていい。

「歴史小説」「時代小説」の代表格と言えば、吉川英治池波正太郎司馬遼太郎があげられる。

「ミステリー小説」の代表格は松本清張にはじまり、東野圭吾綾辻行人宮部みゆき湊かなえ等々、数え出したらきりがない。

「ファンタジー小説」は、日本よりも海外の方が人気が高いので、ハリーポッターや、指輪物語(ロードオブザリング)なんかを想像してもらうと分かりやすい。

そして「ノンジャンル小説」は、上記に該当しない小説なのだが、一般的に「エンタメ小説と純文学の間」を取ったような作品を指していて、「中間小説」と呼ばれたりもする。

代表的な作家だと、朝井リョウ西加奈子とかが挙げられるし、吉本ばなな なんかもココに含まれるかもしれない。

もっとも、エンタメ小説界には「ミステリーもファンタジーも中間小説も、なんでも書けます!」

といった「なんでも屋さん」というのがゴロゴロ存在している。

したがって、上記の肩書きも固定的なものではないので、参考程度にとどめていただければと思う。

エンタメ小説新人賞の一覧

公募制のエンタメ小説新人賞は数多くあるが、それを一覧で比較したのがこちら。
※オススメ度については『公募ガイド』を参考。枚数は比較のため、全て400字詰原稿で記載。

タイトル枚数賞金応募数オススメ度
小説すばる新人賞200~500枚200万1200編前後  5
松本清張賞300枚~600枚500万700編前後  5
小説現代長編新人賞250~500枚300万1000編前後  4
メフィスト賞200枚以上印税300編前後  4
オール読物歴史時代小説新人賞30~80枚50万1000編前後  4
日本ファンタジーノベル大賞300~500枚300万500編前後  4
小説野性時代新人賞200枚~400枚100万700編前後  3
日経小説大賞300~400枚500万300編前後  3
ポプラ社小説新人賞200枚~500枚200万900編前後  3
ノベル大賞100~400枚300万1200編前後  3
角川文庫キャラクター小説大賞180~400枚150万500編前後  3
女による女のためのR-18文学賞30~50枚30万800編前後  3

以上を踏まえて、いくつか補足説明したい。

まず、エンタメ小説の新人賞の最大の特徴として「規定枚数が多い」点が挙げられる。

これは純文学の新人賞との大きな違いでもあるが、要するにこれは、ほとんどすべての出版社が「受賞作の出版」を前提に考えているからであり、もっといえば「長編小説」を書ける書き手を発掘したいと考えているからだといえる。

次に、「賞金が高い」という点も特徴の一つだ。

相場が「100万」程度の純文学新人賞に比べて、エンタメ新人賞の賞金額は、その倍以上。

要するにこれは、出版側が「おもしろい作品なら商業的に十分元が取れる」と踏んでいるからであり、実際、業界を見渡してみると、「純文学」よりも「エンタメ小説」の方が売上高は断然高い。

最後に、上記の一覧の「オススメ」については、「受賞後、作家として活躍していけるか」というのが大きな基準となっている。

「作家として生きていきたい」と考えるなら、小説すばる新人賞や、松本清張賞あたりを前向きに検討してみるといいかもしれない。

さて、この中から、特に「人気のある賞」として、

  • 小説すばる新人賞
  • 松本清張賞
  • 小説現代新人賞
  • 小説野性時代新人賞
  • 日本ファンタジーノベル大賞
  • オール読物歴史時代小説新人賞

について解説をしていきたい。

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小説すばる新人賞

概要

出版社集英社
賞金200万(+記念品)
枚数200枚~500枚
(400字詰原稿用紙)
応募締め切り3月末
発表11月
応募総数1100~1300編程度
主な受賞者村山由佳(1993年)、
荻原浩(2005年)、
朝井リョウ(2009年)など
その他必ず単行本化

傾向と特徴

エンタメ小説の新人賞の中では断トツの人気と実績を誇るのが、この小説すばる新人賞だ。

1988年の第一回以降、数々の有名作家を輩出し、その中には村山由佳、荻原浩、朝井リョウといった、後の直木賞作家の名も連なる。

募集要項には「ジャンル不問」との記載があるが、ノンジャンル系の小説の受賞に強い印象を持つ。

また、過去の授賞作品を読んでみると、極めて「純文学」的な作品も多く、同じく集英社が主催する純文学賞「すばる文学賞」と大きな違いはないと言ってもいい。【 参考記事 すばる文学賞(集英社)の傾向・特徴・受賞作を解説

選考委員のラインナップは常に豪華で、「ノンジャンル」系のエンタメ小説新人賞の中では、間違いなくトップクラスの賞だといえる。

「自分の小説は純文学かな? エンタメ小説かな?」

そう悩んだとき、作品の枚数が多めなら、この小説すばる新人賞に応募するとよいかもしれない。(僕はそう悩んで出した作品が、二次選考まで進出した)

その分、難易度も上がるわけだが

「将来、作家として生きていきたい」

そう真剣に考えるなら、本賞への応募を検討したい。

【 参考記事 小説すばる新人賞(集英社)の傾向と特徴を解説

松本清張賞

概要

出版社文藝春秋
賞金500万(+記念品)
枚数300枚~600枚
(400字詰原稿用紙)
応募締め切り10月末
発表6月
応募総数600~800編程度
主な受賞者葉室麟(2007年)、
川越宗一(2018年)など
その他必ず単行本化

傾向と特徴

1994年の第1回から1998年の第5回まで、推理・時代・歴史の短編小説を募集。

1999年の第6回から2003年の第10回まで、推理・時代・歴史の長編小説を募集。

そして、2004年以降は、ジャンルを問わず、長編のエンタメ小説を募集している。

先に紹介した「小説すばる新人賞」の次に勢いのある賞で、葉室麟や川越宗一といった直木賞作家も輩出している。

もともとは「推理小説」「時代小説」「現代小説」に特化していたこともあってか、受賞作を眺めてみると、やはりそれらのジャンルが強い印象を持つ。

また、「小説すばる新人賞」同様に、受賞作の中には硬質で「純文学」的雰囲気を持つ作品も多い

「中間小説や、本格的な歴史小説や時代小説で勝負したい」

そう考える人にはオススメの賞だ。

また、賞金500万というのも業界内では破格の金額だ。

今後、大物作家が輩出されることをを期待したい。

【 参考記事 松本清張賞(日本文学振興会)の傾向と特徴を解説

小説現代長編新人賞

概要

出版社講談社
賞金300万(+記念品)
枚数250枚~500枚
(400字詰原稿用紙)
応募締め切り7月末
発表3月
応募総数800~1000編程度
主な受賞者朝井まかて(2008年)など
その他必ず単行本化

傾向と特徴

講談社発行の小説誌『小説現代』が主催する「ジャンル不問」のエンタメ小説新人賞

その歴史は古く、前身は「小説現代新人賞」(1963年 – 2005年)までさかのぼる、

2006年からは「小説現代長編新人賞」としてリニューアル。

が、大物作家の輩出は多くはなく、リニューアル後は朝井まかてしか直木賞作家を輩出していない。

朝井まかてといえば、今や飛ぶ鳥落とす勢いの売れっ子作家で、デビュー後は数々の文学賞を受賞しまくっている。(しかも意外や意外、朝井まかては奨励賞デビューなのだ)

さて、本章の受賞作を見てみると、ノンジャンル系の小説の受賞が目立つ。

青春モノやラノベっぽいノリの作品が多く、「小説すばる文学賞」に比べて、ライトでテンポのよい作品が受賞する傾向にあるようだ

「読者の読む手を止めない、とにかく面白い話」

これがエンタメ小説の本質だとすれば、この賞は「ザ・エンタメ小説新人賞」といった趣か。

最近は話題になる受賞作も多く、個人的には今後が楽しみな新人賞。

【 参考記事 小説現代長編新人賞(講談社)の傾向と特徴を解説

小説野性時代新人賞

概要

出版社KADOKAWA
賞金100万(+記念品)
枚数200枚~400枚
(400字詰原稿用紙)
応募締め切り8月末
発表5月
応募総数600~800編程度
主な受賞者岩井圭也(2018年) など
その他「受賞作なし」の年あり

傾向と特徴

エンタメ系の新人賞としては、まだ歴史が浅く、2005年に第1回がスタート。

2020年、当初の「野性時代フロンティア文学賞」という名前を変更し、「小説野性時代新人賞」としてリスタート。

受賞者を見てみると、残念ながら「売れっ子作家」や「有名作家」の名はない

歴史が浅いため、仕方がないといえば仕方がないのかもしれないが、先に紹介した「小説すばる新人賞」なんかと比べると、やはり見劣りしてしまう。

とはいえ、本賞では「受賞者なし」の年も珍しくない

この辺りからは、本賞のプライドと本気度が伝わってくるし、決してあなどれない部分でもある。

過去の受賞作を読んでみると、全体的にライトな作品が目立つ

個人的・・・には、小説現代長編新人賞よりも、さらにライトな印象だ。

「ジャンル不問」のエンタメ小説新人賞で比較してみると、

小説すばる新人賞() → 小説現代長編新人賞() → 小説野性時代新人賞()

といった感じ。

「ライトノベルとエンタメ小説の中間」

そんな感じの作品であれば、この賞との相性はいいかもしれない。

なお、「小説野性時代新人賞」になってから、僕は作品を応募して2次選考まで進んだことがある。

その時の作品もかなりライトな作品で、「小説すばる新人賞」のほうでは突っぱねられた作品だった。

そう考えると、僕の分析もあながち的外れではないと思う。

【 参考記事 小説野性時代新人賞の傾向・特徴・代表作を解説

日本ファンタジーノベル大賞

概要

出版社新潮社
賞金300万(+記念品)
枚数300枚~500枚
(400字詰原稿用紙)
応募締め切り6月末
発表12月
応募総数600~800編程度
主な受賞者森見登美彦(2003年)、
西條奈加(2005年)など
その他必ず単行本化

傾向と特徴

日本で「ファンタジー小説」に特化した賞は珍しく、その代表がこの「日本ファンタジーノベル大賞」だ。

受賞者には現役で活躍する作家も多く、森見登美彦や西条奈加といった売れっ子の「直木賞作家」も輩出している。

「ファンタジー小説」というと日本ではあまり馴染みがないかもしれないが、海外に目を向けると、実は現代小説の王道ともいえるジャンルだったりする。

ガルシア=マルケスをはじめ、ノーベル文学賞を受賞した作家の中にも「ファンタジー小説」の名手も少なくない。

つまり、ファンタジー小説というのは、結構「玄人向け」という一面があるのだ。

実際に、「ファンタジーノベル賞」の過去の受賞作を読んでみると、「きっと海外文学が好きなんだろうなあ」と思わせられる作品も多い。

書評家や評論家の中には、

「日本ファンタジーノベル大賞こそ、世界文学にもっとも近い」

と主張する人がいるくらい。

「海外文学が好きな人」「海外文学みたいな作品を書きたい」という人にとってはオススメの文学賞だと言える。(というか、そういう人にとって、応募できるのはココしかないと思う)

オール読物歴史時代小説新人賞

概要

出版社文藝春秋
賞金50万(+記念品)
枚数30枚~100枚
(400字詰原稿用紙)
応募締め切り6月下旬
発表11月
応募総数900~1100編程度
主な受賞者藤沢周平(1971年)、
桜木紫乃(2002年)、
柚木麻子(2008年)など
その他書籍化は不確実

傾向と特徴

2021年からは「歴史小説」と「時代小説」に特化している。

公募のエンタメ小説新人賞では、最も歴史が古い。

1952年に第1回がスタートしてから、応募ジャンルや名称の変更がありつつ、現在に至る。

受賞作品は、推理小説、歴史小説、時代小説、中間小説と多岐に渡っている。

輩出した作家も数多く、藤沢周平佐々木譲逢坂剛山本一力宇江佐真理桜木紫乃奥山景布子柚木麻子坂井希久子佐藤巖太郎木下昌輝など、かなり豪華な顔ぶれだ。

こうしてみるとかなり華やかな賞なのだが、現実は結構シビアで、本章を受賞しても「作家人生」が約束されるわけではない。

短編の新人賞ということもあり、受賞作が書籍化されるかどうかは分からないしその後の創作の機会も保障されるとも限らない

「作家として生きていきたい」

そう考える人は、別の新人賞でデビューする必要を迫られるかもしれない。

短編のエンタメ新人賞は珍しく、作家志望の人には重宝がられるが、実は「デビュー」からは意外と遠い新人賞だといっていい。

「歴史・時代小説を書き始めたばかり」

そんな人は、まず腕試しに応募してみてもいいかもしれない。

【 参考記事 オール読物歴史時代小説新人賞の傾向・特徴を解説

効果的に「対策」をするには

エンタメ小説の新人賞への応募を検討している方は、その対策として「過去の受賞作」「受賞作家の作品」を数多く読む必要がある。

こうした作品を分析することの大切さは、多くの選考委員や編集者が口をそろえて言っていることだ。

特に「過去の受賞作品」を読む意義は大きく次の2つ。

  • 賞の傾向や特徴を把握できること。
  • 過去の作品との類似を避けられること。

この2つは一見矛盾するようだけれど、どちらも大切なことだ。

賞の性格にそぐわない作品を投稿することは、いわゆる「カテゴリーエラー」となってしまうし、過去の作品との類似は、その時点で「新人賞としてふさわしくない」とみなされてしまうからだ。

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