はじめに「純文学の新人賞」
純文学とは、明治以降に始まった日本の「近代文学」の伝統を大きく組んだ文学ジャンルで、作者による「“芸術”や“哲学”についての深い思索・探求」が描かれているのが大きな特徴だ。
【 参考記事 【純文学とエンタメ小説の違い】を分かりやすく解説―主な文学賞や文芸誌も整理― 】
そんな純文学をメインで取り扱う雑誌がある。
いわゆる「文芸誌」と呼ばれるのがそれで、中でも有名な「5大文芸誌」というものがある。
これら文芸誌にはそれぞれ、優れた「新人作家」を発掘すべく、年に1度の「公募の新人賞」が設けられている。
それぞれの賞には、それぞれの賞の“色”というものがあるので、たとえば、「純文学を書いて、小説を応募してみたい!」という思いがある人は、各賞の傾向や特徴を把握しておく必要がある。
ということで、今回は「文學界新人賞」(文藝春秋)について解説をしてみたい。
記事では主に「賞の概要」と「賞の特徴と傾向」、「代表的な受賞作」についてまとめていく。
また、最後に作品を書く上での「効果的な対策方法」と、その「おすすめサービス」について紹介するので、ぜひ参考にしていただければと思う。
参考までに、恥ずかしながら僕の「執筆経歴」については(ぱっとしないけど)以下に挙げておく。
では、どうぞ、最後までお付き合いください。
まずは概要を確認!
詳しい説明に入る前に、まずは「賞の概要」について以下に整理しておく。
出版社 | 文藝春秋 |
賞金 | 50万(+記念品) |
枚数 | 70枚~150枚 (400字詰原稿用紙) |
応募総数 | 毎年1500~2500編程度 |
応募締め切り | 毎年9月末日ころ |
発表 | 5月号 |
主な受賞者 | 石原慎太郎(1955年) 吉田修一(1997年) 宮下奈都(2004年)など |
特徴➀「“正統派”が好まれる」
5大文芸誌の中では、もっとも歴史が長いのが『文藝春秋』だ。
ということで、『文藝春秋』が主催する「文學界新人賞」も、純文学新人賞の中で最も歴史が古いということになる。
その栄えある第1回の受賞者は、後の芥川賞作家、石原慎太郎(1955年)だ。
以降、文壇の第一線で活躍する新人を次々と輩出した文學界新人賞だが、その受賞作をざっと見渡してみると、他の賞と比べて「正統派」の小説が多い印象を持つ。
ここでいう「正統派」というのをもう少し分析してみると、次のような特徴が挙げられるだろう。
- 大きな事件や展開は必要ない。
- ささいな日常の一コマを切り取る。
- 緊密で端正な文体が採用される。
- 「人間とは何か」といった鋭い洞察がある。
これらを総合して、ザックリいいえ変えると「日本の近代文学」っぽいということになるだろうか。
「個性豊かな作品」や「エンタメチックな作品」が受賞する「文藝賞」や「すばる文学賞」なんかと比べると、やはり「文學界新人賞」はオーソドックスで正統的な作品が受賞する傾向にあるようだ。
【 参考記事 文藝賞(河出書房新社)の傾向・特徴・受賞作を解説 】
【 参考記事 すばる文学賞(集英社)の傾向・特徴・受賞作を解説 】
この辺りから僕は、「歴史ある純文学賞の貫禄」みたいなものを感じる。
特徴➁「“純度の高さ”が求められる」
もう1つ、文學界新人賞の特徴として挙げられるのが、枚数の少なさだ。
他社と比較すれば、その差は一目瞭然。
他の文学賞が「短・中編小説」だけでなく「長編小説」も想定しているのに対して、文學界新人賞は「短・中編小説」に特化しているといっていい。
ここから言えるのは、1つ1つの言葉選びを正確に「純度や密度の高い表現」を使うのが大切ということだろう。
そのためには、書き手は「削る」作業を厭わずに、作品の“ぜい肉”を徹底的にそぎ落とさなければならない。
参考までに、あの太宰治は「この表現は必要か? と悩んだら削るべき」といったこと自身のエッセイで述べているし、あの川端康成は「長くなりそうな会話は、その9割近くを削った」と言われている。
「削る」という作業は小説を格上で必要不可欠なのは言うまでもないけれど、文學界新人賞には、特にそれが求められていると思われる。
特徴➂「芥川賞に最も近い?」
文學界新人賞は「最も芥川賞に近い賞」などと、まことしやかに言われてきた。
では実際のところ、どうなのか。
結論を言えば、
確かにかつては、そういう傾向はあったが、今ではむしろ『文學界』からの授賞は少ない。
おそらく、各方面から「なんか芥川賞、文藝春秋からの出版多くない?」といった批判を受けたため、現在は公平性を確保するようになったのだろうと、僕は考えている。
実際、一昔前までの受賞者の中には、その後芥川賞を受賞した作家が少なくなかった。
ざっと列挙しただけでも、これだけの数がいる。
【 文學界新人賞出身の芥川賞作家 】
石原 慎太郎(1955年)
南木 佳士(1981年)
吉田 修一(1997年)
吉村 萬壱(2001年)
長嶋 有(2001年)
絲山 秋子(2003年)
モブ・ノリオ(2004年)
藤野 可織(2006年)
円城 塔(2007年)
楊 逸(2007年)
砂川 文次(2016年)
沼田 真佑(2017年)
特に、石原慎太郎の『太陽の季節』や、モブ・ノリオの『介護入門』、沼田 真佑『影裏』は、文學界新人賞と芥川賞のダブル受賞作だ。
さらに、『文學界』に掲載された作品が芥川賞を受賞するなんてことも目立つ。
こうした傾向に、何か理由があったのだろうか。
一概には言えないが、僕は「大人の事情」が大きく作用していたと考えている。
ご存じの通り、芥川賞は「日本文学振興会」と「文藝春秋」との共催である。
受賞作は『文藝春秋』に全文が掲載されるものの、書籍の出版は「各社から」ということになる。(たとえば『群像』に掲載された作品なら、講談社といって具合に)
「文藝春秋」に限らず、出版社というのは営利団体なわけなので、「純文学賞」というのも決して「慈善事業」なんかじゃない。
となれば、
「せっかくなら、自分たちが発掘した作家に受賞させたい」
「自社から、芥川賞作品を出版させたい」
そんな風に考えるのは自然なことだろう。
ということで、そんな「大人の事情」から、文學界新人賞を受賞した作家は、その後に芥川賞を受賞する可能性が高くなっていた。
だけど、それは過去のこと。
現在は、各文芸誌から満遍なく選出されていて、そのラインナップを見れば、むしろ『文學界』掲載作品以外の方が多い傾向にある。
『文學界新人賞』を取れば、芥川賞とれるかも! という話は、もはや過去の話といっていいだろう。
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オススメの3作品
僕は新人賞への応募に際して、とにかく受賞作や選考委員の作品を読みあさった。(オススメの方法については後述する)
すると次第に賞の傾向や特徴、選考委員にウケそうな要素というもの見えてきて、具体的な対策を練れるようになっていった。
それに、自分の作品と相性がいい賞というのが必ずあるので、「受賞作を分析する」というのは絶対にしておいた方がいいと思う。
以下では、文學界新人賞受賞作品の中から、とくにオススメの3作品を紹介したい。
ぜひ参考にしていただければと思う。
南木佳士「破水」(1981年)
南木佳士こそ、ザ「文學界新人賞」といった趣の作家だろう。
端正で緊密な文体で描かれるのは、「人間の生と死」
受賞作品の「破水」は、まさに純文学のお手本みたいな作品だ。
南木自身が医者であることと、うつ病を患うほどに「死」に侵されていたこともあり、作品には切実さとリアリティがみなぎっている。
他の出版社が目にもとめなかった南木に対して、文藝春秋の編集者が
「あなたは小説を書き続けるべきだ」
と声をかけ続けた、なんてエピソードがある。
南木を発掘した文藝春秋の選球眼は信頼できると僕は思う。
1989年『ダイヤモンドダスト』で芥川賞受賞。
鷺沢萠「川べりの道」(1987年)
鷺沢萠は、知る人ぞ知る“伝説の作家”で『文藝春秋』が発掘した早世の天才だ。
19歳という若さは、当時の最年少記録。
現役女子大生で端正な顔立ちの鷺沢のデビューは世間の注目集めた。
その才能は、間違いなくホンモノ。
デビューは19歳だが、実際に書かれたのは、彼女が高校生だった頃のこと。
緊密で端正で丁寧な文体で描かれるのは、川べりの風景と主人公の孤独と悲哀。
「これを女子高生が書いたの?」
と衝撃を受けた僕は、一瞬で鷺沢のファンになった。
だけど、鷺沢を知ったとき、すでに彼女はこの世にはいなかった。
35歳で自ら命を絶った鷺沢。
作品に描かれた孤独と悲哀は、まさしく彼女のそれだったことが分かる。
文學界受賞後も数々の傑作を描き、4度の芥川賞候補になったが、授賞には至らなかった。
すばらしい作品ばかりなのに、歴史に埋もれてしまった作家の1人。
もっともっと多くの人に読まれるべきだと、僕は強く思っている。
砂川文次「市街戦」(2017年)
砂川文次も、文學界新人賞を受賞後、芥川賞受賞した作家の1人だ。
2021年『ブラックボックス』で芥川賞を受賞した際、選考委員から「自然主義リアリズム」的とも評された、「正統的な作品」を描く作家である。
決して“大風呂敷”を広げることなく、個人の人生の一部を切り取り、つましく、だけど切実に描く才能がある。
文學界新人賞受賞作の『市街戦』は、リアリズム風の「戦争小説」だ。
作者が元自衛官ということもあって、戦争のリアルをありありと描いた説得力のある作品となっている。
砂川の文体も緊張があるお手本みたいな文体だが、時にテンポ良く、時に丁寧に、文章のテンションを使い分けるところは個人的に見習いたい部分。
心理描写も優れていて、バランスのとれた素晴らしい作家だと思う。
2023年度受賞作(最新)
最新2023年度の受賞作は、
市川沙央の『ハンチバック』
に決定した。
作品のあらすじは以下の通り。
『ハンチバック』は、多くの選考委員から大絶賛されている。
打たれ、刻まれ、いつまでも自分の中から消えない言葉たちでした。この小説が本になって存在する世界に行きたい、と強く望みました。
村田沙耶香
小説に込められた強大な熱量にねじ伏せられたかのようで、読後しばらく生きた心地がしなかった。
金原ひとみ
文字に刻まれた肉体を通して、書くという行為への怨嗟と快楽、その特権性と欺瞞が鮮明に浮かび上がる。
青山七恵
僕個人としても、ここ数年の中で、もっとも強烈で熱量のある作品だと感じた。
以下の記事で詳しく解説をしているので、ぜひ参考にどうぞ。
【 参考記事 あらすじ解説・考察『ハンチバック』(市川沙央)―自らの尊厳を守るためのコトバ― 】
効果的に「対策」をするには
文學界新人賞への応募を検討している方は、その対策として「過去の受賞作」や「受賞作家の作品」を数多く読む必要がある。
こうした作品を分析することの大切さは、多くの選考委員や編集者が口をそろえて言っていることだ。
特に「過去の受賞作品」を読む意義は大きく次の2つ。
- 賞の傾向や特徴を把握できること。
- 過去の作品との類似を避けられること。
この2つは一見矛盾するようだけれど、どちらも大切なことだ。
賞の性格にそぐわない作品を投稿することは、いわゆる「カテゴリーエラー」となってしまうし、過去の作品との類似は、その時点で「新人賞としてふさわしくない」とみなされてしまうからだ。
そこで、「過去の受賞作」や「受賞作家の作品」を格安かつ効率的に読むためのオススメサービスを2つ紹介しようと思う。
どちらも読書家や作家志望者にとって人気のサービスなので、ぜひ利用を検討していただければと思う。
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『静か雨』(宮下奈都)や、『最後の息子』(吉田修一)などの過去の受賞作をはじめ、など、宇佐見りん、今村夏子、川上未映子、羽田圭介、遠野遥などの人気芥川賞作家の作品 、さらに執筆関係の書籍 が 月額1500円で聴き放題。
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対象の作品には、砂川文次や吉田修一などの受賞作家の作品が含まれている。
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