解説『狂気の歴史』(M・フーコー)ー正常・異常を決めるもの ー

哲学
LGBTに不寛容な社会

性的マイノリティ、いわゆるLGBTと呼ばれる人たちがいる。

昔ほどではないにせよ、彼らはまだまだ肩身の狭い思いを強いられているといっていい。

日本でも、東京都のある議員が「同性愛が広がれば、この街は滅びる」という趣旨の発言をして、大問題になったことは記憶に新しい。

そういう論調の中、自分自身のセクシャリティに悩み、自分自身を否定したり、自分に嘘をついたりする人もいるだろう。

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ある1人の青年の話

ここに1人の青年がいる。

彼もまた、セクシャルマイノリティと呼ばれる1人だ

ある日、彼のうちに、こんな疑問が芽生える。

「やっぱり、じぶんって、おかしいのかな?」

生きづらい現状は、自分自身のせいなのだ。

自分自身の人格が悪いのだ。

何度も何度も自問自答した。

自ら命を絶とうともした。

ただ、明晰な彼は、すこし立ち止まって、次のように考えた。

「ちょっとまて、そもそも、自分をおかしいっていう世間の価値観って、ほんとうに正しいのか」

「じぶんをおかしいっていう人たちの根拠って一体なんなのか」

「価値観なんて、時代や地域によってちがうじゃないか」

「いったい、いつから、こんな生きづらい時代になったんだ」

そして、こう思い立つ。

「そうか、『おかしい』が作られてきた歴史を調べればいいんだ」

「そうすれば、ぼくを『おかしい』っていうヤツらを糾弾できるはずだ」

「『おかしい』が、ナンボのもんじゃい」

彼の名前は、ミシェル・フーコー、フランス人だ。

(だいぶ脚色はあるだろうが)フーコーの主著、『狂気の歴史』『性の歴史』は、こんな感じで生まれた。

世界を変えた思想誕生の背景には、フーコー自身の、同性愛者としての「強烈な生きづらさ」があった。

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フーコーの思想

フーコーが生きたのは、1900年代なかば、このころ「異常」と見なされていた人々は主に、

  • 「犯罪者」
  • 「精神病患者」
  • 「同性愛者」

などである。

なぜ、これらの人が異常と見なされてしまうのか、それをフーコーは考察していく。

この辺の論考もスリリングなのだが、残念ながら、ここでは割愛。

とにかく、彼が導き出した考えはこうだ。

【集団はその存続を最優先する → その結果、不都合な存在は排除される】

国家の発展や繁栄、これを望まない人はいないだろう。

国家が裕福になれば、当然、個人もその恩恵を受けることができるからだ。

逆に、国家が貧しければ、そこに住む国民だって苦しくなる。

ということで、国家の繁栄とは、個人の幸福実現の手段ともいえる。

実際、人類はこれまで「集団の存続と繁栄」を目指してきたわけなのだが、残念ながら、その中でたくさんの悲劇が生まれたことは、歴史が教えてくれるとおりだ

そして、その悲劇の主人公は、『異常』と見なされた個人たちだった。

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おそるべき「優生学思想」

個人の幸福を目指そう、という願いは間違ったものではなかったはずだ。

ところが、その願いを達成しようとすると、その真逆のことが起きてしまう。

【個人の幸福を目指そう → 国家の繁栄を目指そう → 特定の個人を排除しよう】

という、転倒が起きてしまう。

「優生学思想」という言葉をしっているだろうか。

「人間には、優れた人間と劣った人間の2種類いて、優れた人間の遺伝子のみを残そう」という、とんでもない思想である。

この考えを国家レベルで実践してきた集団がある。

たとえば、第二次世界大戦下のナチス・ドイツ、である。

「国家の繁栄の実現のため、ユダヤ人という下等な民族を排除しよう」

これが、あの大量の個人を殺戮した、ホロコーストの論理だ。

そして、これは、ぼくたち日本人にとっても、決して他人事ではない。

日本にも、ハンセン病患者に対する強制隔離を法律化した、「らい予防法」というものが存在したからだ。

これも、「優生学思想」、つまりホロコーストの論理と同じだ。

【個人の裕福を目指そう → 国家を繁栄させよう → ハンセン病がはやるとまずい → ハンセン病患者を隔離しよう】ということだ。

当時は、ハンセン病に対する知識も曖昧で、強烈な伝染病であると考えられていた。

さらに、ハンセン病は遺伝するとも考えられていた。

だから、患者は療養所に隔離され、そこで結ばれた患者の間に赤ん坊ができた場合も、「生まれてくる赤ん坊のため」という理由で、堕胎を余儀なくされたという。

そして、これも有名な話しなのだが、患者達は、療養所に入所すると、まず名前を奪われたということだ。

「あなたが、本名を名乗り続ける限り、あなたはもとより、家族のためにならない。今日から、あなたは、自分の過去を捨てて、あたらしい存在に生まれ変わりましょう」

ということだ。

「あなたは、あなたであってはならない」

これほどの存在否定があるだろうか。

「名前を奪われることが、もっとも苦しかった」という入居者の手記を、ぼくは読んだことがある。

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フーコーの言葉に耳を傾けよう

さて、こうして見ても分かると思うが、

「国家の繁栄」

という聞こえの良い言葉、少し変換をしてみれば、

「多数派の国民にとっての幸福の実現」

ということなのだ。

そして、そこには「多数派のために、その足手まといになりそうな、少数の人たちは排除しても構わない」という論理が潜んでいる。

さて、もう一度、フーコーが生きたフランスで「異常」とされた人たちを振り返りたい。

  • 「犯罪者」
  • 「同性愛者」
  • 「精神病患者」

どれも、当時のフランスにとって、集団存続の足手まといと考えられていた。

ちなみに、「同性愛者」に関しては、新たな生命を生み出すことができないということなのだろう。

「同性愛者は生産性がない」と発言した、日本の女性議員に通じるものがある。

「みんなの幸せをねがっています」という、一見優しい言葉の背後には、おそるべき排除の原理があり、それは、上記の発言のように、ある日ひょっこり顔を出すものなのかもしれない。

「集団には必ず、個人を排除しようという原理が生まれる」

フーコーが言うとおりなのだ。

彼はそのことを暴いて、「それ、危ないぞ!」と、世界に警鐘をならしつつ、

「生きづらい君たち、君たちはちっとも異常なんかじゃない」

と、集団に排除されつつある人たちの復権をつよく願った、そんな哲学者だったといえる。

現代は、いたるところで「排除の原理」が働いている時代だ

いまこそぼくたちは、フーコーの言葉に耳を傾けなければいけないのかもしれない。

ちなみに、自身の思想を貫いたフーコー、最後はエイズを発症し、この世を去った。

おすすめの本

村田沙耶香著『コンビニ人間』

芥川賞受賞した本書

以前に、『コンビニ人間』村田沙耶香 著 ー「異常」だなんて、だれが決めた? ー でフーコーと関連した記事を書いているので、ぜひ、そちらを参考にしてほしい。

こちら、小説としてもとても面白くおすすめ。

しかも、この本にも「異常」に対する異議申立というメッセージが色濃く見られる。

しかも、しかも、フーコーと、とても似た匂いがするのだ。

作者の村田沙耶香は、フーコーを読んでいるのではないか? と思うくらい、とってもフーコーフーコーしている。

内田樹の『寝ながら学べる構造主義』

じつは、フーコーと同事態の思想家たちをひっくるめて、「構造主義」とか「ポスト構造主義」とか呼んだりするのだが、本書では、その「仲間達」の主要メンバーと、その思想がざっくりと紹介されている。

もちろん、フーコーもいるので、まずは、ここからってのでも良いだろう。

ちなみに、本書は、「東大生が選ぶ、おすすめの書100選」的なヤツにノミネートされている。

(なお、本書については、こちら【人間なんてあてにならない -『寝ながら学べる構造主義』(内田樹 著)より- 】で詳しく紹介している)

中山元 著『フーコー入門』

こちらは本格的な入門書なので、丁寧にちゃんと理解したい人は読んで損はしない

ぜひ、一読を。

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