はじめに「日本人の原点」
『古事記』は西暦712年に成立した、“日本最古の歴史書”と呼ばれている。
だが、実はそこに書かれているのは人間の姿ではなく、八百万の神々の姿だ。
『古事記』は“歴史書”でありながら、正真正銘の“神話”なのである。
“神話”とはいえ、そこには古代日本人の世界観や人間観、そして宗教観、死生観なんかが色濃く表れている。
そしてそれらは、現代の日本人にも通じるものであり、僕たちは『古事記』を読み解くことで、自分たちのルーツというものを知ることができるのだ。
この記事では、そんな『古事記』の現代語訳のオススメ本を5つ紹介したい。
「漫画じゃなく、古事記を文章で読みたいけど、どの本を読めばいいのかな?」
そんな疑問に答えられる内容になっていると思うので、ぜひ参考にしていただければと思う。
それでは、最後までお付き合いください。
『新版 古事記』(中村 啓信)
オススメ度★★★☆☆
こちらは、中級者にオススメ。
ちまたには、多くの現代語訳があり、その性格は実にさまざまなのだが、中でも本書の「本格感」はズバ抜けている。
というのも、作者の中村敬信は「古事記学会代表理事」をつとめる『古事記』の第一人者で、厳密な史料研究の成果を盛り込むことで、原典に忠実な現代語訳を実現させているからだ。
歴史・民俗・文学など、あらゆる点から見ても完成度が高く、世にある現代語訳の中では学術的に最高峰の出来ばえとなっている。
本書の最大の特徴は、「原文」と「現代語訳」の両方が掲載されている点だろう。
このあたりが、「中級者にオススメ」という理由でもある。
こう聞くと、「ちょっと自分には無理かも」と思う人も多いかもしれないが、それでも現代語訳がとても分かりやすいので、そこまで身構える必要はないと思う。
注釈も充実しているので、古事記の世界観を深く理解することもできる。
とはいえ、初心者にとって少しハードルが高いのは事実なので、もし心配であれば、アマゾンで「試し読み」をしてみるとよいと思う。(もっとも現代語訳の部分は読めないので、雰囲気をつかむ程度になると思うが……)
「原文と一緒に古事記を味わいたい」
そんな人には、間違いなくおすすめの1冊。
『現代語 古事記』(竹田恒泰)
オススメ度★★★★☆
逆にこちらは、初心者にオススメ。
作者は、テレビでもおなじみの論客(?)なので、知っている方も多いと思う。
一癖も二癖もある方で、彼に対する印象も様々だと思うので、“本書に関してのみ”言えば、とても優れた現代語訳だといえる。
まず、シンプルにわかりやすい。
僕自身、最初に手に取った現代語訳が本書だったのだが、初めての『古事記』でもスーっとストーリーが頭の中に入ってきた。
というのも、難解な言葉をつかわない、平易な文体が本書の特徴だからだ。
また、古事記といえば、「八百万の神々」が登場するということで、その名前を理解することが、そもそも難しいしストレスである。
ちまたの現代語訳の中には、誰が主役で、誰がチョイ役なのか分からないものも多い。
そこにきて、本書はとても親切で、重要な神名や人名は太文字で表記されているので、ぱっと見で重要キャラを理解することができる。
また、旧皇族竹田家に生まれた著者ならではの視点による独自の解釈や解説も、他の現代語訳と大きく異なる点だろう。
巻末には、「神統譜」「歴代天皇系図」ほか、神名・人名を中心とした約1500の「主要語句索引」がついているのもうれしい。
最後に、作者の書籍『古事記完全講義』と一緒に読むと、さらに理解が深まると思う。
『現代語訳 古事記』(福永武彦)
オススメ度★★★★☆
文庫版が出版されたのが2003年のこと。
出版当時、読者から、
「もっとも読みやすい古事記」
との圧倒的支持を得た本書。
作者の福永武彦は、知る人ぞ知る、戦後の重鎮作家である。
そもそも、歴史書である『古事記』が、なぜここまで人々に親しまれてきたかといえば、本書の「文学的性格」が大きな要因だといえる。
古事記に出てくる神々は、まさに僕たち日本人と同じように、泣いたり、笑ったり、怒ったり、恨んだり、妬んだりする。
恋をしたり、家族を設けたりするかと思えば、人を殺したり、戦争をしたりもする。
そうした「人間性」を鋭く描いたのが『古事記』であるとすれば、これは「歴史書」である以前に、正真正銘の「文学」であるといっていい。
そして、本書は、そんな『古事記』を文学者の目から解釈し、現代語訳した書なのである。
しかも、その訳はとても平易で、初心者であっても問題なく理解することができる。
ただし、他の現代語訳に比べて注釈が少ないので注意が必要だ。
おそらく、いちいち内容を中断させないための配慮なのだと思うが、この点で物足りなさを感じる人もいるかもしれない。
とはいえ、現代語訳としてとても分かりやすいので、一読する価値はあると思う。
「文学としての古事記を読みたい」
そう考えている人には、福永武彦の現代語訳がオススメだ。
『古事記』(池澤夏樹)
オススメ度★★★★☆
こちらも、『古事記』を文学的に現代語訳した1冊。
作者の池澤夏樹は、現代文学を代表する作家のひとりで、芥川賞作家でもある。
しかも、先ほど紹介した福永武彦の実の子で、まさに「オヤジの仕事にムスコも挑む!」といった趣だ。
その現代語訳はというと、父の福永武彦に“勝るとも劣らない”完成度の高さである。
ごちゃごちゃしている原文をシンプルに整理していて、すっきりとしたレイアウトがとても読みやすい。
また、各所に施された注釈も非常に丁寧で、史料をもとにした解説があったり、作者の感想やツッコミのような記述があったりと、とてもおもしろい。
あえて、福永武彦訳と比較すると、個人的には池澤夏樹訳の方がマジメでカタい印象を持つ。
ということで、文学的な雰囲気と、学術的な雰囲気を併せ持っているという意味で、バランスの良い1冊だといえるだろう。
序章には、池澤夏樹がしたためた「太安万侶への手紙」があり、池澤の翻訳することへの戸惑いや、古事記に対する思いなどが垣間見えて興味深い。
総じて満足できる1冊なのだが、多くの文庫本と比べて、値段が高いのが唯一の欠点か。
ちなみに出版が2014年の本書は、河出書房から出た「文学全集シリーズ」の第1弾でもある。(なお、こちらの企画の主催者も池澤夏樹であり、その他にも、現代人気作家らによる優れた古典の現代語訳がそろっている)
『口訳 古事記』(町田康)
オススメ度★★★★★
個人的に最もオススメできるのが、この町田康の現代語訳だ。(なんなら★を10個くらいつけてしまいたいくらい)
とにかく、本書は、唯一無二の独創性と個性が光っている。
地の文は格調高い「である調」なのに対して、会話文のすべては砕けた「関西弁」というギャップが本書の最大の特徴だ。
「前代未聞のおもしろさ!!」
これは、出版社「講談社」のキャッチコピーであるが、その面白さというのも一種独特で、なんというか「抱腹絶倒!」というのは言い過ぎなのだけど、ニヤニヤ、プププッ、ヘッヘッヘ笑いが止まらないといった感じ。
というのも、町田康を知る人ならわかってくれると思うのだが、そもそも彼の文学というのが、そういう名状しがたい笑いを内包するキレッキレの文学であり、ファンから「町田節」とも呼ばれる珍妙な文体が大きな魅力なのだ。
そんな「町田文学」の世界観と『古事記』の世界観は、びっくりするくらいに相性が良い。
実は僕自身、数年来
「町田康、いつか古事記を訳してくんないかなー」
と思っていたこともあって、本書の出版を聞くに及び、飛び上がらんばかりに喜んだという経緯がある。
なので、本書は自信をもってオススメできる1冊なのだ。
ここまで読んで、
「そんなふざけた現代語訳、読みたくない」
と思った方もおられると思うが、本書にはちゃんと「学術要素」や「マジメ要素」も確保されていて、きちんと古事記を学ぶことができるので、そこは安心してほしい。
とはいえ、大真面目な古事記を読みたい人は、上述した4作の中からお好きな1冊を選んでいただければと思う。
「キレッキレのおもしろ古事記を読んでみたい!」
そんな人がいるのかどうか分からないけれど、オススメできるとすれば、そういう類の人なので、ぜひ。
以上、『古事記』の現代語訳オススメの紹介記事を終えます。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
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