小説すばる新人賞(集英社)の傾向と特徴を解説—作家志望の人は対策を!—

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はじめに「エンタメ小説の新人賞」

エンタメ小説とは純文学に対置されて語られることが多く、別名「大衆文学」と呼ばれたりもする。

「エンタメ小説」と「純文学」両者の違いついては、こちらの記事【純文学とエンタメ小説の違い】を分かりやすく解説を参考にしてほしいのだが、「エンタメ小説って何?」という問いにシンプルに答えるならば、

「読者を飽きさせない面白い物語」

ということになるだろう。

そんなエンタメ小説を対象にした、公募の新人賞は数多くある。

これについても、詳しくはこちらの記事【公募エンタメ小説新人賞】の傾向・特徴を徹底解説を参考にしてほしいのだが、その中でも「ジャンル問わず」広く募集をかける長編新人賞が次の4つである。

【 ノンジャンル系小説の新人賞 】

・小説すばる新人賞賞(集英社)

・松本清張賞(文藝春秋)

・小説現代長編新人賞(講談社)

・小説野性時代新人賞(KADOKAWA)

この4つの賞が他の新人賞と異なる点は、いわゆる「ノンジャンル系」の小説を受け入れる点だ。

また、それぞれの賞には、それぞれの賞の“色”というものがあるので、たとえば、「エンタメ小説を書いて、小説を応募してみたい!」という思いがある人は、各賞の傾向や特徴を把握しておく必要がある

ということで、今回は「小説すばる新人賞」(集英社)について解説をしてみたい。

記事では主に「賞の概要」「賞の特徴と傾向」「代表的な受賞作」についてまとめていく。

また、最後に作品を書く上での「効果的な対策方法」と、その「おすすめサービス」について紹介するので、ぜひ参考にしていただければと思う。

参考までに、恥ずかしながら僕の「執筆経歴」については(ぱっとしないけど)以下に挙げておく。

【 出版経験 】

・地方文学賞受賞
地方限定出版

・地方新聞文学賞受賞
→ 地方新聞に作品が掲載
kindleで自費出版

・某小説投稿サイトで優秀賞受賞
某アンソロジー企画に参加
大手出版社より出版

【 新人賞における戦績 】

・オール読物新人賞 → 二次選考進出

・すばる文学賞 → 二次選考進出

・小説野性時代新人賞 → 二次選考進出

・小説すばる新人賞 → 二次選考進出

では、どうぞ、最後までお付き合いください。

概要をチェック

詳しい解説に入る前に、まずは賞の概要をチェックしておく。

小説すばる新人賞のHP はこちら

出版社集英社
賞金200万(+記念品)
枚数66枚~167枚
(40字×30行)
応募締め切り3月末
発表11月
応募総数1100~1300編程度
主な受賞者村山由佳(1993年)、
荻原浩(2005年)、
朝井リョウ(2009年)など
その他必ず単行本化
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特徴➀「ノンジャンル系」で人気№1

「ジャンル不問」で「ノンジャンル系OK」をうたう新人賞の中で、「小説すばる新人賞」は人気も実績も№1だと断言できる。

その理由として、この賞の出身者の多くが現役で作家として活躍をしており、また、この賞が人気作家、売れっ子作家、直木賞作家というのを数多く輩出している点があげられる。(これについては後述する)

実際に過去の受賞作を読んでみると、他の新人賞に比べて良質で「おもしろい」作品が多い。

したがって、「将来、作家として生きていきたい」と本気で考えるなら、応募すべきはこの「小説すばる新人賞」一択だといっても過言ではないだろう。

とはいえ、難易度についても、この賞が断トツ№1。

年によってアタリハズレはあるものの、基本的に完成度が高い作品が受賞している。

応募数も、他の賞に比べて頭1つ抜けている。

近年の応募状況をまとめるとこんな感じ。

小説すばる新人賞
……1200編前後

・松本清張賞
……700編前後

・小説現代長編新人賞
……1000編前後

・小説野性時代新人賞
……700編前後

ということで、この賞でデビューする倍率は1000倍以上ということになる。

以上のように、小説すばる新人賞は人気・実績ともに、業界№1だと言っていいだろう。

特徴➁「売れっ子作家」を数多く輩出

先述した通り、小説すばる新人賞は多くの売れっ子作家を生み出してきた。

花村萬月『ゴッド・ブレイス物語』(1989年)

篠田節子『絹の変容』(1990年)

佐藤賢一『ジャガーになった男』(1993年)

村山由佳『天使の卵』(1993年)

荻原浩『オロロ畑でつかまえて』(1997年)

熊谷達也『ウエンカムイの爪』(1997年)

堂場瞬一『8年』(2000年)

朝井リョウ『桐島、部活やめるってよ』(2009年)

改めてこう見てみも、かなり豪華な顔ぶれだ。

なお、この中で直木賞を受賞した作家は、

  • 篠田節子(1997年)
  • 佐藤賢一(1999年)
  • 村山由佳(2003年)
  • 熊谷達也(2004年)
  • 朝井リョウ(2013年)
  • 荻原浩(2016年)

ということで、1990年代以降、小説すばる新人賞出身作家の中からコンスタントに受賞者が出ていることが分かる。

言うまでもないが、直木賞は「実力のある中堅作家」に与えられる賞なので、授賞のタイミングはそれぞれだが、間違いなく今後も、本賞出身者の直木賞受賞が実現するだろう。

特徴➂「純文学的」作品が強い

記事の冒頭で、「エンタメ小説」の定義については、

「読者を飽きさせない面白い小説」

と書いた。

これは言い換えると

「読者の手を止めない小説」

ということになるだろう。

ところが、この小説すばる新人賞の受賞作には、読み進めていくと、ふと手が止まり、

「これはどういうことだろう……」

と、じっくりと考えさせる小説が多いのだ。

これは言い換えると「純文学」的な要素が強い作品だと言っていい。

実際、朝井リョウなんかはそうした小説を書く作家の一人だ。

デビュー作『桐島、部活やめるってよ』を含め、彼の作品には、読者のページをめくる手を止め、じっくりと考えさせるような作品が多い。

村山由香や、荻原浩なんかも、人間の心理を描かせたら上手な作家だし、何を隠そう花村萬月はなんと芥川賞を受賞した、ゴリゴリの純文学気質の作家だ。

つまり、小説すばる新人賞は

「これってもはや純文学だよね?」

と思えるような作品が少なくないのである。

個人的なことで恐縮なのだけれど、実は僕も数年前に、小説すばる新人賞に応募し2次選考に進出したことがある。

その時の作品は、自分としては「純文学」のつもりで書いた作品だったのだが、思うところがあって急遽、小説すばる新人賞に応募を決めたのだった。

宗教とか、哲学とかを扱った、要するに一般受けしなそうな作品だったが、それでも1次を通過したのは、この賞がある程度そうした「思想」とか「哲学」にも寛容な賞だからだと僕は分析している。

以上のように、小説すばる新人賞は「純文学」的な雰囲気を持つ (要するに、あまり軽すぎない) エンタメ小説が求められていると言っていいだろう。

 

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オススメ作品3選

僕は「小説すばる新人賞」に限らず、新人賞への応募に際して、とにかく受賞作や選考委員の作品を読みあさった(オススメの方法については後述する)。

すると次第に賞の傾向や特徴選考委員にウケそうな要素というものが見えてきて、具体的な対策を練れるようになっていった。

それに、自分の作品と相性がいい賞というのが必ずあるので、「受賞作を分析する」というのは絶対にしておいた方がいいと思う。

ここからは、小説すばる新人賞の傾向と特徴をつかむのに、個人的に参考にしてほしい3作品を厳選して紹介したい。

創作の参考になるだけでなく、作品としても面白いものを選んでいるので、単純に「オススメの本を紹介して欲しい」という人もチェックしていただければと思う。

朝井リョウ『桐島、部活やめるってよ』(2009年)

田舎の県立高校。バレー部の頼れるキャプテン・桐島が、理由も告げずに突然部活をやめた。

集英社の紹介文より

……という設定なのだが、面白いのは「桐島」が物語に全然登場してこないこと。

主役は「桐島」の周辺にいる5人の生徒たちで、「桐島の部活引退」による彼らの変化や、繊細な内面や葛藤が鮮やかに描かれる青春群像劇。

タイトルは一見してライトなのだが、登場人物の造形や心情描写が卓越しているので、読んでいてズシンと重みを感じる作品となっている。

そこらへんのエンタメ小説とは一線を画した、小説すばる新人賞を代表する作品だ。

小説の設計や、発想、文体、キャラクターなど参考にできる点は多いので、小説すばる新人賞の応募を検討している人は、一読の価値あり。

周防 柳『8月の青い蝶』(2013年)

「わしはずっと八月を、くり返してきたんじゃ」。

急性骨髄性白血病で自宅療養することになった亮輔は、中学のときに広島で被爆していた。ある日、妻と娘は亮輔が大事にしている仏壇で古びた標本箱を見つける。そこには前翅の一部が欠けた小さな蝶がピンでとめられていた。それは昭和二十年八月に突然断ち切られた、彼の切なくも美しい恋を記憶する品だった。

集英社の紹介文より

小説すばる新人賞の受賞作の中には、青春モノや、爽快感・疾走感のある作品も多いのだが、

そんな中にあって、本作は「戦争」「被ばく」という重めのモチーフを採用し、「生きるとは何か」を誠実に思索していく良作だ。

あえてジャンルを言えば恋愛小説なのだろうが、テーマがテーマなので様々な読み方ができる。

登場人物の造形がリアルで、彼らの心理描写にも説得力があるが、これが「9割フィクション」というのだから作者の想像力に驚かされる。

タイトルにある「青い蝶」の使い方もうまい。

ただし、前半がやや冗長なので、そこは読み進めるので多少の忍耐が必要だと思う。

安壇美緒『天龍院亜希子の日記』(2017年)

人材派遣会社に勤める田町譲・27歳。ブラックな職場での長時間勤務に疲れ果て、プライベートでは彼女との仲がうまくいかない。なんとなく惰性で流れていく日常。

集英社の紹介文より

この作品は、決して「傑作」という作品ではない。

文章もメチャクチャうまい、というワケでもない。

なんなら、設定も発想も、別段新しいとも思えない。

だけど、「小説を執筆している人」は、きっと勇気をもらえる作品だと思うのだ。

登場人物が生き生きしているのは会話文を主軸にテンポよく運ぶからだろう。

所々に挟まれる軽妙な軽口も面白い。

くだらない日常をいかにして乗り越えるか、こんな時代だからこそ人々の胸に届くテーマだと思う。

それを大風呂敷広げることなく、つましく、優しく、そして確かに描ききったという印象。こういうのが大衆文学新人賞を取ってくれると、なんとなく未来は明るいなと思える。

「気取った文章じゃなくていい、思い通りにのびのびと書けば良い」

本書を読み終えた時、そう言われた気がして、とても勇気をもらえた。

効果的に「対策」をするには

小説すばる新人賞への応募を検討している方は、その対策として「過去の受賞作」「受賞作家の作品」を数多く読む必要がある。

こうした作品を分析することの大切さは、多くの選考委員や編集者が口をそろえて言っていることだ。

特に「過去の受賞作品」を読む意義は大きく次の2つ。

  • 賞の傾向や特徴を把握できること。
  • 過去の作品との類似を避けられること。

この2つは一見矛盾するようだけれど、どちらも大切なことだ。

賞の性格にそぐわない作品を投稿することは、いわゆる「カテゴリーエラー」となってしまうし、過去の作品との類似は、その時点で「新人賞としてふさわしくない」とみなされてしまうからだ。

そこで、「過去の受賞作」や「受賞作家の作品」を格安かつ効率的に読むためのオススメサービスを2つ紹介しようと思う。

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