解説「係り結びの起源」—なぜ連体形?なぜ已然形?なぜなくなった?謎を全て解決—

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そもそも「係り結び」って何?

長い前置きになるけど、ちょっとだけお付き合いください。

高校1年生の時、僕は当時の古典の先生から、いやと言うほど係り結びについて暗記を強いられた。

「はい、『ぞ、なむ、や、か』が来ると文末の活用形はー? そうそう連体形だな。じゃあ、『こそ』がくるとー? 違う違う、正解は已然形だ! おまえはそんなことも分かんねえのか!」

ってな感じで、高1の頃の古典担当の先生は、なぜか親の敵のように僕たちに「係り結び」について力説していた。

「この先生は、よっぽど係り結びに思い入れがあるんだなー」

と、当時の僕は、そんな(アホみたいな)感想を抱いた。

だけど、高2、高3になったとき、僕は自分の感想が、いかにピントのずれたアホウ極まるものであったかを知ることになる。

というのも、高1の頃の担当だけではなく、どの古典担当も例外なく、とにかく「係り結び」を力説しまくっていたのである。

僕は思った。

「ちがう! 係り結びが好きなのは高1の担当だけじゃない! 古典の先生って言うのは、例外なく皆、この係り結びが大好きな生き物なんだ!」

と、そう結論づけた僕は、そうした古典担当たちが繰り出す「係り結び攻撃」にうまく対応すべく、「ぞ、なむ、や、か、連体形。こそがくれば、已然形」と念仏のように唱え、係り結びを習得していった。

だけど、当時から、僕には引っかかりがあった。

「そもそも、なぜ、先生たちは、あそこまで係り結びの法則を力説してやまないのだろう。そもそも、係り結びって何なのだろう・・・・・・」

そうなのだ。

あの頃、どの先生も係り結びについて僕らに力説してくるわりに、

「なぜ、係り結びが大事なのか」

「なぜ、ぞ、なむ、や、か、がくると連体形で終わるのか」

という、超がつくほどの本質的な問題については、みんなが華麗にスルーをしていたのだ。

そして、数年後。

僕は大学で日本語学を学び、「係り結び」の本質について知ることになる。

「なるほど! 現代の日本語を語る上で『係り結び』は、決して無視できないものだったんだ! だからこそ、高校生は、古文の時間に『係り結び』について学ぶことになっているんだ!」

にもかかわらず、高校時代の先生は誰一人、僕に「係り結びの本質」を教えてくれはしなかった。

いつしか僕は、こう思うようになった。

「ひょっとしたら、彼らは係り結びの本質を知らなかったんじゃないか?」

いや、そんなことはないと思いたい。

だけど、なら、どうして彼らはきちんと教えてくれなかったのだろう。

高校生にとって、まったくもって意味不明な係り結びの法則が、

「これは、現代日本語に大きな影響を与えている文法事項である」

と、そんな風に教えてくれていたら、古典に興味を持つ生徒だって増えたかもしれないではないか。

で、今の時代は、どうなのだろう。

もしも、今も、日本の古典の先生の多くが「係り結びの本質を華麗にスルー」しているのだとすれば、それはとっても残念なことに思われる。

そこで、僕はこの記事を書くことに思い至った。

この記事では、あらためて「係り結びとは何か」について解説をしていきたい。

解説するのは、主に4つ

  • 係り結びの定義
  • 係り結びのルーツ
  • 係り結びの消滅
  • 係り結びと現代日本語の関係

である。

なお、古典文法の謎を解きたい方は、こちらの一冊がオススメ。

この記事も、こちらを参考に執筆している。

それでは、お時間のある方は、ぜひ最後までお付き合いください。

 

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係り結びの定義

本題に入る前に、ここで、係り結びの定義について確認をしておく。

きっと、多くの人が高校時代に、こんな風に習っただろうと思う内容だ。

【 係り結びとは 】

・文中に「ぞ」「なむ」「や」「か」「こそ」という係助詞があると、文末が「連体形」で終止する

・文中に「こそ」という係助詞があると、文末が已然形で終止する

・「ぞ」「なむ」「こそ」は強調を、「や」「か」は疑問・反語を表す。

これが「係り結びの法則」の概要であるが、以下では、これを下敷きにして諸々を解説していこう。

係り結びのルーツ

「ぞ、なむ、や、か」の場合

そもそも、係り結びは、なぜ生まれたのか。

結論を言えば「倒置」による強調効果を狙ったからだ。

たとえば、次の例文で考えてみよう。

遊びに来たのは太郎君だ

何の変哲もない一文だが、これを倒置で強調すると、次のようになる。

太郎君だ、遊びにきたのは。

ここで、強調の助詞「ぞ」が文中にあることに注目してほしい。

そして、高校の先生の、あの言葉を思い出してほしい。

「文中に“ぞ”がくると、係り結びが起きるぞ」

そう、この倒置によって、文中に「ぞ」がくることこそ、係り結びのルーツなのだ。

では、これを古語に当てはめてみるとどうなるだろう。

遊びに来けるは太郎

さきほどの現代語を古語に訳すと、まぁ、こんな感じになる。

ちなみに「来ける」の「ける」は、過去の助動詞「けり」の「連体形」であることも確認しておこう。

さて、これを倒置すると次のようになる。

太郎、遊びに来けるは。

ほら。だんだん、僕らが知っている係り結びに近づいてきた。

最後に仕上げに、文中の「、」と文末の「は」を省略してしまおう。すると、

太郎遊びに来ける

と、僕たちが知っている「ぞ~連体形。」という係り結びの完成ということになる。

同様のことは、「か」という疑問の係り助詞においても言える。

遊びに来けるは太郎
   ↓
太郎、遊びに来けるは。
   ↓
太郎遊びに来ける

ほら。

ちなみに、これ以外の「なむ」や「や」については、現代語の例で説明することは難しいのだけれど、基本的には上記の理屈を当てはめて良い。

こんな風に、係り結びのルーツは「倒置による強調」にあるのだ。

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「こそ」の場合

なるほど、「ぞ、なむ、や、か ~連体形。」のルーツは「倒置」にあったのか。

だけど、次のような疑問は依然として残る。

じゃあ「こそ ~已然形。」のルーツは、一体なんなの?

ということで、ここではそれに答えていきたいと思う。

ただし、これはやや説明が複雑となる。

まずさっそく結論をいうと、

「こそ ~已然形。」の係り結びのルーツは「逆接表現」にある

ことの経緯はこうだ。

そもそも、奈良時代の日本語において「已然形で言い切る」という用法があった。

たとえば、万葉集の和歌に、

「天つたふ 入日さしぬれ ますらをと 思へる我も しきたへの 衣の袖は とほりて濡れぬ」

という柿本人麻呂の歌がある。

この歌の歌意をざっくり言うと、

日暮れが寂しくなったので、立派な男と思っていた僕も、さすがに涙がでちゃった」

くらいの意味になる。

ここで注目すべきは、もちろん「入日さしぬれ、」という条件節だ。

ぬれ」というのは完了の助動詞「ぬ」の已然形である。

平安時代であれば、本来「ぬれ」に「ば」という接続助詞がくっつくところなのだが、ここでは「ぬれ」という已然形で言い切ることで、条件節を成り立たせている。

こんなふうに、奈良時代の日本語には、「已然形で言い切る」表現が見られた。

そこに、係助詞の「こそ」がくっつくことになる。

これにより、理論上、次のような表現が可能となった。

入日さしぬれ、+ こそ = 入日こそさしぬれ

では、こうした「こそ~已然形、」という表現によって、どんな効果が生まれるのか。

結論を言えば、「逆接用法」である。

たとえば、現代語にも、

「僕はあのとき、反論こそしなかったけれど、心のそこでは反対だった」

といった表現があるが、これこそまさに、「こそ~已然形、」による「逆接用法」の名残だといっていい。

こんな風に、奈良時代においては「こそ~已然形、」という表現で逆接を表すようになっていった。

そして、ここにおいても倒置は起きる。

先ほどの例で言えば、

「反論こそしなかったけれど、心の底では反対だった」

という表現が、

「心の底では反対だった、反論こそしなかったけれど」

とひっくり返る感じだ。

こうして「こそ~已然形、」はそのまま文末にも用いられるようになり「こそ~已然形。」という形が登場するにいたる。

こうした経緯を見てみると、奈良時代では「こそ ~已然形」には逆接の意味しかなかったということが分かる。

ところが、それが、平安時代になると状況が変わってくる

「こそ~已然形。」という文末表現が、単純な強調で使われるようになっていくのだ。

すると、平安時代になると次第に、次のような棲み分けがされていくようになる。

〇「こそ~已然形」=逆接の用法
●「こそ~已然形」=強調の用法

このあたりは、高校時代に古文でならった通りの内容だろう。

以上が、「“こそ”による係り結び」の誕生の経緯なのだが、やっぱり複雑なので、以下のように簡略化してまとめておこう。

【 係り結び(こそ~已然形。)の成立過程 】

1、もともと奈良時代には「已然形」で言い切れる用法があった。
 ※「~已然形、・・・」の形


    ↓

2、そこに「こそ」が加わり「逆接」の用法が生まれた。
 ※こそ ~已然形、・・・」の形

    ↓

3、倒置によって「逆接」の用法が、文末においても用いられるようになった。
 ※「こそ ~已然形。」の形

    ↓

4、平安時代になり「逆接」以外にも「強調」の用法が生まれ、主に文末における用法がそれを担うようになった。
 「こそ ~已然形」の強調表現(係り結び)が完成。

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係り結びの衰退

ここまで、係り結びの「定義」や「ルーツ」について確認をしてきた。

ここからは、いよいよ、「係り結び」の現代的意義に迫る内容となっていく。

スポットを当てたいのは、主に「ぞ、なむ、や、か~連体形。」に関わる部分である。

まず、係り結びが日本語に与えた大きな要素、それは、

「連体形で文を終止できるようになったこと」

である。

改めて言うまでもないが、日本語において、文末は基本的には「終止形」や「命令形」で終止するというルールがあった。

そこに、係り結びが登場し、文章を「連体形」で終止することが可能となる。

多くの人が、係り結びによる強調表現を使うようになり、そしてあるとき、次のような用法が生まれることになる。

それは、

「係助詞」を省略して、文を連体形で終止する

という用法である。

つまり、

「ぞ」や「なむ」がなくても、文章を「連体形」で終わらせ、その文を強調する

という用法だ。

これは「連体形止め」という、そのまんまのネーミングを持つ、主に平安時代の半ばあたりから見られるようになった用法である。

たとえば、あの『源氏物語』などにも「連体形止め」はちらほらと登場をするのだが、それが特に見られるのは「登場人物の会話文」である。

たとえば、こんな感じだ。

「すずめの子を犬君が逃がしつる。伏籠のうちにこめたりつるものを。」

『源氏物語』(若紫の巻)より

これは、源氏物語におけるヒロイン「紫の上」の幼少時代のセリフで、

「スズメの子供をお友達の犬君ちゃんが逃がしちゃったの!! カゴの中に入れておいたのにな」

といった意味なのだが、ご覧の通り、文中に「ぞ」もなければ「なむ」もない。

だけどこれは明らかに、若紫の憤慨が前面に現れた表現であり、すなわち、正真正銘の「強調表現」である。

こんな感じで、平安時代の文学作品には「連体形止め」の用例が散見される。

これはつまり、平安時代の人々が、少しずつ会話文を「連体形」で終止するようになってきたことを示している。

しつこいようだが、「ぞ」とか「なむ」を用いなくても、「連体形終止」によって自分の言葉を強調しちゃおう! というわけだ。

そして、これはとりもなおさず、「係り結びの法則」があったからこそ生まれた動きである。

こうした現象は、平安時代から鎌倉時代にかけて決定的になる

平安時代から鎌倉時代というのは、「動乱の時代」として知られている。

地震や津波、台風といった自然災害が頻発し、富士山なんかも複数回噴火をしている。

都をまるごと焼き尽くす大火事が起こったりしたし、疫病なんかも流行ったりしたし、そこに度重なる内乱が追い打ちをかけてくる。

その結果、都には死屍累々たる死者の山が築かれることとなった。

参考までに、鎌倉時代の平均年齢は、26歳程度と言われている。

まちがいなく、当時の日本は、至上最大級のディストピア状態だったといっていい。

さて、言語には、大きく変わる局面というのがある。

人々の「極限状況」である。

鎌倉時代の極限状況もまた例外ではなく、日本語には大きな変化をもたらした。

その1つに「係り結びの消滅」があったのだ。

もともと平安時代には、「連体形止め」という、「ぞ、なむ、がなくても連体形で終止できる」という表現が徐々に人々の愛大に広がりつつあったのだが、それを、世にまたとない「ディストピア状態」が拍車をかけることとなった。

「こんな生きるか死ぬかの瀬戸際で、正しい日本語とか、そんな悠長なこと言ってられっか!」

というワケだ。

こうして、鎌倉時代になると「係り結び」は消滅。

「連体形止め」というのが、完全に定着することになる。

これは、つまり、次のように言い換えることができる。

「日本語の終止形は、連体形に取って代わられた」と。

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係り結びと現代語の関係

さあ、ここまでくれば「係り結びの現代的な意義」はほぼ見えてきたようなものだ。

では、その現代的意義とは何か、さっそく結論を言おう。

「係り結びがあったからこそ、現代日本語の終止形がある」

これだけでは、いまいちピンとこない人もいると思うので、もう少し詳しく説明してみよう。

わかりやすい例として、サ行変格活用動詞「す」があげられる。

ちょっと、古文の授業っぽいムードが漂ってくることをゴメン被って、サ行変格活用動詞「す」の活用形を確認したい。

そして、「係り結び消滅以前」と「係り結び消滅以後」とで、その終止形がどのように変化したかを、ぜひチェックしてみてほしい。

【 係り結び消滅以前における活用 】

未然連用終止連体已然命令
するすれせよ

【 係り結び消滅以後における活用 】

未然連用終止連体已然命令
するするすれせよ

ちなみに、現代日本言におけるサ行変格活用「する」は、次のように活用する。

現代日本語における活用 】

未然連用終止連体已然命令


するするすれせよ
しろ

こうして3つの活用表を並べてみると、サ行変格活用の「す(する)」について、「係り結びの消滅以後」と「現代日本語における活用」とで、その活用がカナリ似てきていることが分かる。

それはとりもなおさず、終止形の「す」が、かつての連体形「する」に取って代わられたからだといっていい。

こうした例は、他にもある。

  • カ行変格活用動詞の終止形「来」→「来る」

また、次のような変化も、大きい理屈は同じである。

  • カ行下二段活用の終止形「受く」→「受くる」→「受ける」
  • カ行上二段活用の終止形「起く」→「起くる」→「起きる」

そして、こうした語の変化の元をたどっていくと、「日本語に『連体形終止』をもたらした『係り結び」』がある!」ということなになるのである。

しかも、ここには、大きなおまけがついてくる。

それは「が」による主客表現が可能になったことだ。

その経緯はこうである。

「連体形終止」が一般化していく中で、「連体形止めによる強調効果」というものが次第になくなっていく

それはそうだろう。

なぜなら、「連体形終止」が力を発揮できるのは、他でもない「終止形終止(へんな言葉だけど)」がベースにあるからだ。

「普段とは違う表現」になるからこそ、強調効果は生まれるもの。

だけど、「連体形終止」が普通になってしまえば、そこに強調効果などなくなって当然だろう。

そうなってくると、これまで不動のポジションに位置していた「文中の“ぞ”」というのが衰退していき、それに取って代わるように、あらたな助詞が登場することになる。

それが、現代日本語の格助詞の王様「が」なのである。

つまり、

吹く。

という表現がこれまでのものだったとすれば、「ぞ」が衰え「が」に取って代わられたことで、

吹く

という表現が生まれたというワケだ。

これはもう、どっからどうみても、完璧に現代の日本語である。

係り結びが衰え、連体形終止が一般化し、文中の「ぞ」が力を失った。

この瞬間、日本語は「が」という主客表現を手に入れたのだった。

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まとめ

以上、「係り結びの法則」について詳しく解説をしてきた。

最後に、結論をまとめて、この記事をしめくくりたい。

【 係り結びとは 】

・文中に「ぞ」「なむ」「や」「か」「こそ」という係助詞があると、文末が「連体形」で終止する

・文中に「こそ」という係助詞があると、文末が已然形で終止する

・「ぞ」「なむ」「こそ」は強調を、「や」「か」は疑問・反語を表す。

【 係り結びのルーツ 】

・「ぞ、なむ、や、か」による係り結びは「倒置法」による強調がルーツ

・「こそ」による係り結びは「逆接」の条件節がルーツ

【 係り結びの消滅 】

・平安時代~鎌倉時代において、文中に係助詞を必要としない「連体形止め」が一般化し、係り結びが消滅した。

【 係り結びと現代日本語の関係 】

・係り結びがあったから、現代の「終止形」がある
※鎌倉時代に「終止形」が「連体形」に吸収され一本化した。

・係り結びがあったからこそ、現代の「が」による主格表現がある
※鎌倉時代に文中の「ぞ」が衰退し、そこに格助詞の「が」が取って代わった。

以上で、係り結びに関する記事をしめくくりたい。

やや難解な内容になってしまったかもしれないが、「係り結びって、そもそもなんなの?」という疑問が解消され、「係り結び」の本質を理解していただけたなら、僕としてはとてもうれしく思う。

今後もできるだけ、日本語を学ぶ方の参考になるような記事を書いていきたいと思います。

それでは、最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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