はじめに「エンタメ小説の新人賞」
エンタメ小説とは純文学に対置されて語られることが多く、別名「大衆文学」と呼ばれたりもする。
「エンタメ小説」と「純文学」両者の違いついては、こちらの記事 【 【純文学とエンタメ小説の違い】を分かりやすく解説 】 を参考にしてほしいのだが、「エンタメ小説って何?」という問いにシンプルに答えるならば、
「読者を飽きさせない面白い物語」
ということになるだろう。
そんなエンタメ小説を対象にした、公募の新人賞は数多くある。
これについても、詳しくはこちらの記事【 【公募エンタメ小説新人賞】の傾向・特徴を徹底解説 】を参考にしてほしいのだが、その中でも「大手出版社」による代表的新人賞が次の5つである。
それぞれの賞には、それぞれの賞の“色”というものがあるので、たとえば「エンタメ小説を書いて、小説を応募してみたい!」という思いがある人は、各賞の傾向や特徴を把握しておく必要がある。
ということで、今回は「オール読物歴史時代新人賞」(文藝春秋)について解説をしてみたい。
記事では主に「賞の概要」と「賞の特徴と傾向」についてまとめていく。
また、最後に作品を書く上での「効果的な対策方法」と、その「おすすめサービス」について紹介するので、ぜひ参考にしていただければと思う。
参考までに、恥ずかしながら僕の「執筆経歴」については(ぱっとしないけど)以下に挙げておく。
では、どうぞ、最後までお付き合いください。
概要をチェック
詳しい解説に入る前に、まずは賞の概要をチェックしておく。
※オール読物歴史時代新人賞のHPはこちら。
出版社 | 文藝春秋 |
賞金 | 50万(+記念品) |
枚数 | 30枚~100枚 (400字詰原稿用紙) |
応募締め切り | 6月下旬 |
発表 | 11月 |
応募総数 | 900~1100編程度 |
主な受賞者 | 藤沢周平(1971年)、 桜木紫乃(2002年)、 柚木麻子(2008年)など |
その他 | 書籍化は不確実 |
特徴①「歴史・伝統」のある新人賞
公募のエンタメ系新人賞の中で、本賞の「歴史と伝統の深さ」はダントツ№1だ。
そのルーツは1952年に始まった「オール新人杯」までさかのぼる。
これは、戦後にスタートしたあらゆる「公募型」の小説新人賞の中で一番の古さだ。
同賞は、1960年に「オール讀物新人賞」と名称が変更され、2008年には「オール讀物推理小説新人賞」と一本化される。
そして、2020年には「歴史時代小説」に特化した新人賞「オール讀物歴史時代小説新人賞」へとニューアルし、現在に至る。
その長い歴史の中で輩出してきた作家も、数えだせばキリがない。
ざっと見渡しただけでも直木賞作家の名が目立ち、改めて「豪華な顔ぶれだな」と感じる。
「オール讀物歴史小説新人賞」は、新人賞の中でもトップクラスの「歴史と伝統」を誇る新人賞なのだ。
特徴②「歴史時代小説」に特化
前述の通り「オール讀物新人賞」は2021年より、応募作品を「歴史時代小説」に限定した「オール讀物歴史時代小説新人賞」にリニューアルされた。
ここであらためて、前身の「オール讀物新人賞」出身の作家を並べてよう。
すると、この頃からすでに「歴史時代小説」畑の作家が多いことに気が付く。
- 南條範夫(歴史時代小説)
- 藤沢周平(歴史時代小説)
- 佐々木譲(冒険小説・時代小説・警察小説)
- 逢坂剛(推理小説、冒険小説、時代小説)
- 宇江佐真理(歴史時代小説)
- 乙川優三郎(歴史時代小説)
- 山本一力(歴史時代小説)
- 石田衣良(中間小説)
- 桜木紫乃(中間小説)
- 志川節子(歴史時代小説)
- 奥山景布子(歴史時代小説)
- 坂井希久子(官能小説)
- 柚木麻子(中間小説)
- 佐藤巖太郎(歴史時代小説)
- 木下昌輝(歴史時代小説)
これは決して偶然ではなく、そもそも『オール讀物』という小説誌は「歴史時代小説に力を入れた」小説誌なのだ。
いまでも『オール讀物』に掲載されている小説を見てみると、「歴史小説」や「時代小説」がもっとも多く、次に「ミステリー小説」が続くといった感じだ。
それに、歴代の受賞作を振り返ってみても、やはり「歴史時代小説」が多い。
それがもっとも顕著なのは、「オール讀物歴史時代小説新人賞」にリニューアルされる直前で、この頃は、ほぼ毎年のように「歴史時代小説」が受賞していた。
- 2017年「新芽」(歴史時代小説)
- 2018「母喰鳥」(歴史時代小説)
- 2019「首侍」(歴史時代小説)
- 2020「をりをり よみ耽り」(歴史時代小説)
以上のような経緯があるので、2021年の「歴史時代小説」へのリニューアルは、むしろ自然な流れだといっていい。
もしも、本賞の傾向と特徴をつかもうと思うなら、過去の受賞作のうち「歴史時代小説」を読み込む必要があるだろう。
特徴③「作家生存率」は低い
さきほど僕は「本賞出身の作家は多い」と書いた。
もちろんそれは嘘ではないのだけれど、きちんとここで強調しておきたいことがある。
それは「残念ながら、近年は目立った作家が現れていない」ということだ。
本賞出身で活躍している作家の中で一番新しいのは木下昌輝(2012年受賞)で、次に新しいのは柚木麻子(2008年)といった感じ。
そして、2012年以降は、受賞作家の露出はびっくりするくらい少ない。
なんとか露出のある作家を挙げるなら、
- 佐々木愛(2016年受賞)
- 三本雅彦(2017年受賞)
の2人だろうか。
前者は、『ひどい句点』という中間小説で受賞後、2019年に短編集を刊行したものの、それ以降、目立った露出はない。
後者は『新芽』という時代小説で受賞後、『オール讀物』で数編の短編を掲載しているものの、書籍の刊行にはこぎつけられていない。
こうしてみると「大物作家を数多く輩出した」のは過去のことで、残念ながら近年の様子を見ると「本賞を受賞しても、作家としての活躍の場が保障されるわけではない」と言わざるを得ないようだ。
特徴④「規定枚数」の少なさ
「本賞を受賞しても、作家としての活躍の場が保障されるわけではない」
その理由として、「規定枚数の少なさ」があると僕は考えている。
「50枚から100枚」(現在は30枚から100枚)という規定枚数は、エンタメ小説としては非常に少ないため、その作品だけで「書籍刊行」することはできない。
となると、もういくつかの短編を書きあげ、それらの作品が「出版にたえうる」と判断されてようやく「書籍刊行」ということになる。
これは「小説すばる新人賞」や「小説現代長編新人賞」などの、他のエンタメ系新人賞などとの最大の違いだといっていいだろう。
なお「規定枚数」の少なさは、応募のハードルを極端に下げているとも思われる。
実際に、リユーアル以前(2020年まで)の応募総数は2000~2500くらいで、公募新人賞の中ではダントツの多さだった。
とはいえ、その中から人気作家が登場することはまれで、その点は「文藝春秋」も頭を悩ませていた点だと思うのだ。
2021年のリニューアルは、そうした折のことだった。
このリニューアルは、
「いっそのこと、歴史時代小説に特化した新人賞にして、その中から人気作家を発掘したい」
という文藝春秋の思いの表れなのだろう。
リニューアル後の応募総数は半分に減り、現在では900編程度に落ち着いている。
だけど、それは「歴史時代小説」にしぼられた、少数精鋭の900編だともいえる。
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まとめ「本賞に応募すべき人」
以上を踏まえて「オール讀物歴史時代小説新人賞に応募すべき人」をまとめると以下の通りだ。
繰り返しになるが、この賞を受賞しても作家としての道が開けるとは限らない。
むしろ、現状としては、作家として活躍するためには、受賞後も引き続き優れた作品を作り続けなければならない。
ひょっとしたら、別の新人賞でデビューする必要さえあるかもしれない。
とはいえ、本賞はまちがいなく「歴史と伝統」のある新人賞だ。
そこに名前を連ねることができるのなら、それこそ作家冥利につきるというものだ。
それに、応募数900編の頂点になるのは並大抵のことではない。
決して侮ることのできない新人賞なので、本賞を狙うならば、出来る限りの対策をして挑戦したい。
効果的に「対策」をするには
歴史・時代小説の新人賞賞への応募を検討している方は、その対策として「過去の受賞作」や「受賞作家の作品」を数多く読む必要がある。
こうした作品を分析することの大切さは、多くの選考委員や編集者が口をそろえて言っていることだ。
特に「過去の受賞作品」を読む意義は大きく次の2つ。
- 賞の傾向や特徴を把握できること。
- 過去の作品との類似を避けられること。
この2つは一見矛盾するようだけれど、どちらも大切なことだ。
賞の性格にそぐわない作品を投稿することは、いわゆる「カテゴリーエラー」となってしまうし、過去の作品との類似は、その時点で「新人賞としてふさわしくない」とみなされてしまうからだ。
また、多くの資料を渉猟し「歴史的背景」を把握しておくことも必要不可欠だろう。
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